◆短くわかる民事裁判◆
訴状の受け取りを拒否したら
被告の住所に郵便配達人が来て、訴状副本や期日呼出状、判決正本等を配達しようとしたときに、被告が受け取りを拒否したらどうなるでしょうか。
郵便配達人は、被告の住所では、被告本人の他、被告の使用人その他の従業者(被告に雇われている人)または被告の同居者(ただし趣旨を理解できないような者:実務的には10歳程度未満の子どもを除く)に、郵便物を渡して送達をすることができます(民事訴訟法第106条第1項)。そして、これらの者が正当な理由なく受け取りを拒んだときは、その郵便物を置いて帰ることで送達ができたものと扱われます(民事訴訟法第106条第3項)。これを法律用語では「差置送達(さしおきそうたつ)」と呼んでいます。特別送達の送達報告書にも、「送達方法」に「次の者が正当な理由なく受取りを拒んだのでその場に差し置いた。ア 受送達者本人 イ 使用人・従業者 ウ 同居者」という欄があり、そこにチェックされた報告書が裁判所に提出されることになります。
したがって、郵便配達人が、受取を拒否した者が、被告本人かその使用人その他の従業者、同居者と判断すれば、訴状副本等をその場に置いて帰り、裁判所は訴状副本等が有効に送達されたものと扱います。
そうすると、被告が答弁書を提出せずに第1回口頭弁論期日に欠席すると、原告の言い分をすべて認めたものとして、欠席判決がなされる可能性がある(実務的にいえば、その可能性が高い)ことになります。
そして、被告が差し置かれた訴状等を見て反論する場合でも、正当な理由なく訴状等の受取を拒んだという送達報告書は、少なくとも書記官は必ず目にし、おそらくは裁判官の目にも触れる(止まる)でしょうから、裁判所が持つ被告の人物像に少なくない影響を及ぼすでしょう。
弁護士の目からは、訴状の受取拒否などというのは百害あって一利なしの愚かしい行為というほかありません。
さて、被告が受取を拒否する際に、郵便配達人の質問に答えず名乗らなかったらどうなるでしょうか。郵便配達人が日常の配達等で被告と面識がある場合には直接判断できることもあるでしょうし、面識がないとしても配達時の問答から合理的に考えて、被告本人かその使用人その他の従業者、同居者と判断すれば、差置送達をするでしょうし、判断できなければ不在連絡票を置いて持ち帰ることになるのでしょう。不在連絡票を置いて帰った場合は、「訴状の不在連絡票を放置したら」のように展開することになります。
差置送達がなされた場合、客観的にはその受取拒否をした者が被告本人でもその使用人その他の従業者、同居者でもなかった場合は、送達は無効になります。しかし、現実的には、被告の住居に、被告本人もその使用人や同居者もいない状態で被告本人でもその使用人その他の従業者、同居者でもない人がいて、郵便配達人の質問に対して名乗らず、被告本人がどこにいる等の質問(当然郵便配達人が聞くはず)にも答えないなどの言動をするということは考えられませんし、そういった事情や、郵便配達人が置いて帰った訴状等はどうなったのか、被告本人が見たのならなぜ裁判所に連絡しないのか、などさまざまな事情を被告側で合理的に説明することは困難だろうと思います。こういうと、送達が有効なことの立証責任は原告側にあるはずだなどと言い募る人がいるでしょうけれども、裁判上の立証は、常識的な判断です。被告の住居で、聞かれても名乗らずに受取を拒否する人は、被告本人である蓋然性があり、そのような場合にはそれを否定する方が否定できる合理的な説明ができないなら、それが被告本人だと立証されているとするのが常識的です。
訴状の送達については「裁判所の呼出を無視すると」でも説明しています。
モバイル新館の 「訴状が届かないとき」でも説明しています。
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