◆解雇事件よもやま話◆
解雇事件の裁判で高額の解決金を得るには
![]()
労働者側では裁判官に解雇無効(勝訴)の心証を持たせること、復職を言われたら応じられることの2点が重要
労働者が解雇された事件で労働者が高額の解決金を得る(有利な金銭解決をする)ために最も有効な方法は、解雇を争う(復職を求める)裁判を起こし、もし使用者(会社)が復職させると言った場合にはそれに応じられる状態で、裁判官に解雇が無効(判決なら労働者が勝訴)という心証を持たせ、それを使用者側に示させることです。
その根拠は、理論的なものと、私(弁護士伊東良徳)の解雇事件での経験によるものがあります。
まず理論的には、使用者(会社)が解雇事件で高額の解決金を支払う動機(理由)は、敗訴判決を受けたくないこと、解雇した労働者に復職されたくないことにあります。敗訴判決を受け、それが社内外に知られてしまうと、社内的には使用者、特に解雇を主導した者のメンツが潰れ他の従業員の忠誠心が薄れ、対外的には評判・信用を失墜します。解雇された労働者が復職すると社内的には同様の事態につながりますし、解雇事件では多くの場合社内で力を持つ者がその労働者を嫌ったから解雇しているわけでその者は解雇した労働者に戻ってきてほしくないわけです。
そういう事情で、使用者は和解できなければ敗訴判決が見込まれるとなれば、判決を避け、解雇した労働者の復職を避けるため、金で解決できるのならばと、高額であっても解決金を払う気になるのです。ですから、敗訴判決の恐れがない、あるいは労働者が復職する恐れがない(労働者側が復職したくない)のであれば、高額の解決金を支払わなくても使用者にとって困った事態にはならず、使用者が高額の解決金を支払う動機がなくなるのです。
※解雇された労働者の中には、使用者が不当解雇=悪いことをしたからその慰謝料として(高額の)解決金を払うのだとか、払うべきだと考えている人も相当数いますが、それは幻想に過ぎず、そういう考えで使用者が解決金を支払うことはまったく期待できません。
私の経験としては、私(弁護士伊東良徳)は弁護士になって40年以上常に解雇事件の手持ちがなくならない状態で弁護士業務を行ってきて、解雇事件の平均的な水準よりも相当高い水準の解決金を得てきました。具体的には「解雇事件の解決金の実情」等のページで説明していますが、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が東京地裁で2020年と2021年(暦年:1月1日から12月31日まで)に和解で終了した解雇事件の事件記録を閲覧して調査した解決金の中央値は月例賃金7.3か月分、解決金が月例賃金12か月分以上の和解は全体の31.6%、18か月分以上は19.6%、24か月分以上は11.6%だったのに対し、私の2015年以降の解雇事件の裁判上の和解全件の実績は中央値が月例賃金16.3か月分、解決金が月例賃金12か月分以上の和解が全体の65.5%、18か月分以上が41.4%、24か月分以上が31.0%です。
相当数の事件で平均的な水準より相当高い水準の解決金を得てきた経験から言っても、解決金の水準に最も影響するのは、裁判官が解雇無効(労働者勝訴)の心証に至っているかどうかです。裁判官が解雇有効(労働者敗訴)の心証のときはもちろんのこと、まだなんとも言えないというときには、高額の解決金は望めません。理屈としては裁判官の心証がどうであっても使用者あるいは使用者側の弁護士が敗訴必至と判断すれば高額の解決金に至りますが、通常はというか経験上、裁判官が解雇無効の心証を伝えるまでは使用者側はあきらめない(一縷の希望を持ち続ける)ものです。その結果、裁判官が解雇無効の心証を持ち、それを使用者側に伝えることが必要なのです。そして、裁判官が解雇無効の心証に至っている場合であっても、使用者がそんな高い解決金を払うくらいなら復職させると言い出したとき(それほど多くあるというわけではありませんが、ときどきあります)に、労働者が復職はしたくないということだと、解決金交渉は腰砕けになり、高い解決金を実現することは困難になります。使用者から復職させると言われて労働者が復職はイヤだというので苦渋の低額和解をした経験が私にもあります。使用者に支払能力がない場合も高い解決金は望めません。裁判官が解雇無効の心証を示していても、使用者が倒産間際だとか、零細企業で資金繰りがつかないなどと言われて低額の和解に甘んじたことも、私も何度か経験しています。
結局、労働者側が解雇事件で高額の解決金を得るためには、裁判官に解雇無効の心証を持たせるために、使用者が主張する解雇理由について、その事実が認定できない(証拠上認められない)か、事実が認められても労働者がそうしたことには事情があるとか解雇理由とされた労働者の言動による使用者の業務上の支障がないとかいうことをきちんと主張し、できるだけその裏付けとなる証拠を提出して、本件では解雇に値するような事実や事情はなかったと主張立証すること、もし使用者が復職を認めると言い出したときに労働者がそれに応じる姿勢を見せられることが必要であり、有効です。
逆に、労働者側の主張に説得力がなく、裁判官がこれでは使用者が解雇するのも頷けるというような事件や、労働者がどうしても復職はイヤだというような事件、使用者に支払能力がない事件の場合は、高額の解決金を得ることはできません。
(2026.4.29記)
【解雇事件よもやま話をお読みいただく上での注意】
私の労働事件の経験は、大半が東京地裁労働部でのものですので、労働事件の話は特に断っている部分以外も東京地裁労働部での取扱を説明しているものです。他の裁判所では扱いが異なることもありますので、各地の裁判所のことは地元の裁判所や弁護士に問い合わせるなどしてください。また、裁判所の判断や具体的な審理の進め方は、事件によって変わってきますので、東京地裁労働部の場合でも、いつも同じとは限りません。
**_**
**_**