庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆法律相談の話
  法律相談の勧め

 近年弁護士会の法律相談センターへの相談は激減しています。自分の権利をスムーズに実現できなかったり法的紛争に巻き込まれて悩んでいる人はどこに行っているのでしょうか。どこかで弁護士に相談できていればよいのですが、弁護士に相談せずに、きちんとした知識や経験のない人から不正確な話を聞いたり、インターネット上の情報を見て誤った判断をしているのではないかと心配です。

   具体的事件に適用される法律は事実関係で変わってくる

 一般の方は、法律というものは適用される範囲がハッキリと決まっていて、裁判での法律適用は疑いの余地なく判断されると考えていると思います。時々、裁判は将来はロボットでもできるのかとか、むしろロボットにやらせた方が公平でいいのではないかということも聞かれます。
 しかし、人間の世の中に起こる事件はまったく千差万別で、似たようなことでも一つ一つの事件で事実関係が完全に同じということはありません。例えば、同じ「離婚」の問題でもそれぞれの夫婦間で起きた諍いや不満、そこに至る積み重ねはその夫婦毎に異なるはずです。同じ「解雇」の問題であっても解雇の理由となる事実はさまざまですし、さらにその背景となる事実まで考えれば1件1件の解雇でやはり事実関係は異なります。法律を定める段階で、そういった全てのケースを予想することは不可能ですし、また全てのケースに適切なルールをシンプルな形で決めることも不可能です。割り切ったルールについては、必ずどこかでこのケースにその結果はあまりに酷いという場面が出て来ます。
 そのため、裁判で法律の適用をするときには、事実関係によっては、通常適用されるはずの法律を適用せず別の法律を適用するという場合が出て来ます。人間関係で発生する事件・紛争の適切な解決を図るという民事裁判の目的からすると、そういう場面は、少なからずあるし、その方が望ましいわけです。

   どういう事件ならどうなるかという形で予め説明するのは難しい:ネットで書ける限界

 具体的な事件にどのような法律が適用されるかは、法律や規則類の他、これまでの裁判例を見て判断することになります。その裁判例を読むときも、判例集で最初の方に書き出してある「判旨」「判例要旨」だけではなく、どの事実がその裁判での判断の決め手になったかが大切です。弁護士は、事件を解決する過程で法律や裁判例を度々調べ読み込み、その事件で裁判官がどのように判断するかを経験して、その判断力を身につけていきます。それを一般論として文章にするのは難しいのですが、しかし少なくとも自分の得意分野では、具体的な事実関係の下で裁判官がどう判断するかは大方予測できます。
 私の専門分野と言える労働事件で、最も裁判になることや相談が多い解雇事件を例に挙げると、解雇が有効かどうかは法律自体が「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」という思い切り抽象的な要件しか定めていなくて、これだけを読んでも具体的事件で解雇が有効か無効かおよそわかりません。さらに裁判例の積み重ねがありますが、解雇事件の具体的な事実関係はさまざまで、プラス要素とマイナス要素の総合判断なので、こういうケースは有効でこういうケースは無効という説明はかなり難しいです。第二東京弁護士会の労働問題検討委員会編の「新・労働事件法律相談ガイドブック」(2012年2月発行)、「労働事件ハンドブック」(2015年2月発行、2018年2月発行)を作成するとき、私は編集責任者でしたので、できる限り使いやすくするために具体的な類型毎に何か要件の分析をできないか悩みましたが、やっぱり無理と判断してあきらめました。でも、それでも具体的事件について事実関係を確認すれば、その解雇が有効か無効かは、手慣れた弁護士には自ずと判断できるものです。そのあたりは、弁護士の経験知なんですね。
 分野によって、法律の規定の抽象的な度合いや例外の多い少ないがありますから、一般論で説明しやすい分野と説明しにくい分野は出て来ます。私の専門分野でいうと、労働事件は、全般的に実質判断・総合判断がされる領域が多いので、一般論での説明が難しい分野かなと思います。

 そういう事情から、インターネット上の法律問題に関する情報は、たいていは一般論で、現実に法的紛争に巻き込まれている人が読んだ場合にその人に当てはまるかどうかはかなり注意を要しますし、おそらくその情報を読むだけでは正しい判断ができないと思います。
 逆に、インターネット上の情報で具体的な事件について書いている場合もありますが、その場合は、それが読んでいる人の場合に当てはまるかはわかりません。

   弁護士の法律相談の意味

 弁護士の法律相談では、相談者の抱える法的紛争などの事実関係を聞き、さらには相談者の話す事実についてどれだけの裏付け(証拠)があるかを聞いて、裁判官なり相手方をどの程度説得できるかも見通した上で、そのような問題についての法律適用と裁判になった場合の結果をある程度見通して判断します(どこまで行けるかは相談者が話す事実の内容と持ってきている証拠等によりますが)。その問題を判断する上でのキーポイントになる事実や有効な証拠書類の存在に相談者自身が気づいていない場合でも、少なくともその分野に手慣れた弁護士であれば、相談者とやりとりをするうちにそれを見つけ出していくことができます。(もっと詳しくイメージしたい方は「民事裁判での弁護士の役割」を見てください)
 弁護士の法律相談は、このような知識と経験のある弁護士が、相談者とやりとりをすることで事実と情報を引き出していくことで、適切な結論を導いていくものです。(やりとりが必要だという点について詳しくは「電話+面談が一番いいと考えるわけ」を見てください)。

   ネット上の情報を誤読する恐れ

 インターネット上の情報が、正しく書かれている場合でも、それを正しく読んでいるとは限りません。
 私自身が経験していることで説明しますと、このサイトの記載(特に法律関係の記載)は相当程度注意して、間違った説明をしないように、またできる限りわかりやすく書くようにしているつもりです(それでも時々は単純ミスや見落とし、書いた後に法律や判例などが変わったものの直し忘れがあるかと思います)。それなりに評価していただいている人が多い証しと思いますが、Yahoo知恵袋とかOKwaveとか教えて!gooなどの質問サイトでの回答でこのサイトのページを引用していただいているケースがけっこうあります。そういう引用リンクからのアクセスは、レンタルサーバーの解析サービスでわかりますので、いちいち全部はチェックできませんが、それなりの件数アクセスが来ると気になってチェックします。で、そのチェックをしたときに、私のサイトに書いている趣旨と全然違うことを書いて紹介しているケースが少なからずあります。そういうときはすでに書き込み期限が終了していて訂正できないことが多く、困るなぁと思いつつ、現実にそのページを読んでくれれば違うとわかってくれるだろうと自分に言い聞かせています。そういうケースを見ると、このページをどうしてそういうふうに読めるんだろうと思い、書いている趣旨と全然違うように読む人はいるのだなぁと実感します。
 そういう経験をしているので、一般の方が読むとき、他のサイトの情報もどれだけ正しく読めているのかなぁと心配になります。

 もちろん、インターネット上の情報は、読み違い以前にその情報自体が間違っているという可能性もあります。
 そういうことをあれこれ考えると、一般的な法律知識として知っておきたいということならばともかく、具体的に自分の権利がスムーズに実現できなかったり具体的な法的紛争に巻き込まれて困っているというような人の場合は、ネットの情報で自分で判断するのではなく弁護士の法律相談を受けた方がいいと思います。

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