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短くわかる民事裁判◆
事物管轄:複数被告への請求
 複数の被告に対して、別々の請求ではあるが、同種の請求をする場合、1つの訴状で訴えを提起することができます。例えば、商人が多数の顧客(買主)に対して売掛金(売買代金)を請求するとか、過払い債権者(借主)が複数の貸金業者に対して過払い金請求をするというような場合です。一般人の感覚からすると、ちょっとビックリするかも知れませんが、それができることは民事訴訟法ではっきりと定められているのです(民事訴訟法第38条後段)。

 このような場合に、それぞれの被告に対する訴訟の目的の価額(請求額)が140万円以内だが、合計すると140万円を超えるという場合に、事物管轄は地裁でしょうか、簡裁でしょうか。
 このような訴えが地裁に提起された場合、その地裁が土地管轄を持つものについては合算されてそれが140万円を超えれば地裁に事物管轄があり、その範囲の被告が自分に対する請求は140万円以内だからと簡裁への移送を求めても、移送申立は却下すべきとされます(最高裁2011年5月18日第二小法廷決定最高裁2011年5月30日第二小法廷決定)。

 私は、過払い金請求は、簡易裁判所に提訴すると事件が混んでいて待たされるとか、貸金業者側の和解案を拒否したときに裁判官や司法委員がそこまで来たら飲むべきではないかとこちらに妥協を迫ってくることが多いなどの事情で、できるだけ地裁に提訴するようにしています。そのために請求額が140万円以内の場合、複数の貸金業者への請求をまとめるようにしています(原告が都内在住なら、すべての被告に対する訴えが東京地裁に土地管轄があります)。逆に都内に本店がある貸金業者(アコムとか、プロミス=SMBCコンシューマーファイナンスとか)なら住所がバラバラの原告の訴えを一本の訴状でしてもすべての原告の訴えが東京地裁に土地管轄がありますので、複数原告で起こすということもあります。

 請求額が140万円以内の訴えを地裁に提起した場合、地裁は土地管轄がある限り、相当と認めるときは、簡裁に移送せずにそのまま審理することもできます(民事訴訟法第16条第2項。裁判業界では「自庁処理(じちょうしょり)」と呼んでいます)。したがって、法的には複数被告で合計140万円超にしなくても地裁でやれるのですが、それは地裁がその気にならないとダメで、弁護士側から見ればその保証がありませんし、弁護士としては要件に合わない訴状を出すのは格好悪いので、被告から移送申立が出ても、また地裁が嫌がっても地裁でやれるように、複数被告で合算して140万円超にして訴えるわけです。

 1つの訴えで複数の被告に対して請求する場合でも、主張する利益が各被告に共通の場合は、その限度で、訴訟の目的の価額は合算されず、多い方の額が事物管轄の基準になります(民事訴訟法第9条第1項但し書き)。
 例えば、貸主が借主に対しては貸金返還請求、保証人に対しては保証債務履行請求を1つの訴えで請求する場合(どちらも要するに返していない借金の額を払えというもの)や、運転手が業務中に起こした交通事故の被害者が運転手に対しては不法行為を理由とする損害賠償請求、使用者の会社に対しては使用者責任を理由とする損害賠償請求をする場合(どちらも交通事故で発生した損害を賠償しろというもの)などが考えられます。

 1つの訴えで複数の被告に対して請求する場合の土地管轄の問題は、「土地管轄:複数被告への請求」で説明しています。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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