◆短くわかる民事裁判◆
全部勝訴者は控訴できるか:予備的請求認容時の原告
「全部勝訴者は控訴できるか(原則):不能」で説明したとおり、全部勝訴の判決に対しては、原則として控訴できません。
判決が全部勝訴かどうかは判決主文で判断します(その判断方法については「判決書の読み方:勝訴・敗訴の判断」でも説明しています)。判決主文で請求が全部認容された原告は、原則として控訴することができません。
原告が、2種類の請求の趣旨(せいきゅうのしゅし)を挙げて、一方を「主位的請求(しゅいてきせいきゅう)」、他方を「予備的請求(よびてきせいきゅう)」としている場合に、主位的請求を全部認容した判決(多くの場合、予備的請求については判断しません)に対しては原告が控訴することはできません。
他方、主位的請求を棄却し、予備的請求を認容した判決の場合は、原告が控訴することができます。主位的請求と予備的請求が実質的に同じ結果を意味する場合であっても、請求として別のものであれば、言い換えれば請求の趣旨が違えば、原告が控訴することができるのです。
抽象的に言ってもわかりにくいと思いますので、実際の事例で説明しましょう。
賃貸借をめぐる紛争についての裁判で、賃貸借を継続するが一定の賃料不払いがあった場合には賃貸人は賃貸借契約を解除でき、解除がなされたときは賃借人は明渡しをするという内容を含む和解が成立し、その後、賃借人の不払いがあったので賃貸人が和解調書に基づく強制執行の申立をしたのに対して、賃借人が賃貸人による解除がなされていないことを理由に、解除がなされていないのに和解調書に執行文が付与された(強制執行に当たっては強制執行の根拠となる文書に裁判所書記官が「執行文」を付与することが必要です)ことが違法であるという執行文付与異議(しっこうぶんふよいぎ)を主位的請求とし、和解調書上の明渡しの条件である解除がなされていないので明渡しの強制執行が違法であるという請求異議(せいきゅういぎ)を予備的請求として提訴しました(強制執行の技術的な話はわかりにくいですね。いずれ強制執行関係の記事を書くときに説明します)。
1審判決は、原告(賃借人)の主位的請求の執行文付与異議を棄却し、予備的請求の請求異議を認容しました。これに対し被告(賃貸人)が控訴し、原告が附帯控訴したところ、2審判決は1審で請求異議が認容されて勝訴した原告には執行文付与に対する異議を主張して附帯控訴する利益はないとして附帯控訴を却下しました。
これに対して最高裁1968年2月20日第三小法廷判決は「民訴法545条の請求に関する異議の訴と、同法546条の執行文付与に対する異議の訴とは、目的を異にする別個の訴と解すべきものである。したがつて、本件のごとく、上告人らが第一次請求として執行文付与に対する異議を訴求し、予備的請求として請求に関する異議を訴求し、第一審判決において、第一次請求が棄却され、予備的請求が認容された結果、被上告人が第一審判決の敗訴部分について控訴した場合には、上告人らは棄却された第一次請求につき附帯控訴する利益を有するものと解すべきである。」と判示して、原判決を破棄しました(引用条文は民事執行法制定前のもので、現在は請求異議の訴えは民事執行法第35条、執行文付与異議の訴えは民事執行法第34条になります)。
※最高裁は、原告の控訴は(控訴の利益があり)適法であるが、この場合は執行文付与異議の訴えはできないとして原告の控訴(この場合附帯控訴)を理由がないものとして棄却しています。
原判決(大阪高裁1965年4月7日判決)は、執行文付与異議だろうが請求異議だろうがどちらにしても(和解調書に基づく)強制執行をさせないという効果は同じなので、請求異議が認められれば、それとまったく同じ効果の執行文付与異議を主張する利益はないと判断したものですが、最高裁は効果が同じであっても別の訴えだから、原告が主位的と位置づけたものが棄却されたのなら控訴できるとしたものです。
※この事件では原告が控訴ではなく附帯控訴したので最高裁は「附帯控訴する利益」と判示していますが、理論的には控訴の利益も同じですので、最高裁は控訴の利益についても認めていると解されます。
このケースは、執行文付与異議の訴えは請求の趣旨(認容判決の場合の主文)が書記官が「付与した執行文はこれを取り消す」、請求異議の訴えは請求の趣旨が~に基づく「強制執行はこれを許さない」と異なるので、主位的請求と予備的請求が別のものと扱われます。
これに対して、請求の趣旨は同じで、請求の原因(理由)に主位的主張と予備的主張があるというとき(例えば、主位的主張は賃料不払いによる賃貸借契約解除、予備的主張は賃貸借契約の不成立や無効を理由とする所有権に基づいていずれも建物の明渡しを請求するなど)は、主位的主張を認めず予備的主張を認めて請求を全部認容した判決に、原告は控訴できないと解されています。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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