◆短くわかる民事裁判◆
忌避申立てが認められた例その1
「裁判官の忌避」で説明したように、裁判所は、裁判官の訴訟指揮等のその事件での言動は忌避事由にならないと解するのが一般的ですし、訴訟手続外の事情も含めて、忌避申立てが認められることはほとんどありません。
裁判業界で知られている、公刊物に掲載された忌避申立てが認められたケースは、次に紹介する横浜地裁小田原支部1991年8月6日決定(「自由と正義」43巻6号125ページに参考資料として掲載)と、「忌避申立てが認められた例その2」で紹介する金沢地裁2016年3月31日決定の2件だけと思われます。
主文 原告申立人、被告○○、同××間の平成3年(ワ)第○○号書面真否等確認請求事件について、裁判官△△を忌避する。
理由
一件記録によれば前記訴訟事件が前記裁判官の係に係属し、同事件において、同裁判官係書記官が前記被告両名に対し、1991年8月1日口頭弁論呼出状、訴状、答弁書催告状及び訴状訂正申立て書等を送達するに際し、同裁判官の指示により、「事務連絡」と題する書面を同封したこと、同書面には「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。旨の答弁書を提出してください。右答弁書提出があれば、出頭不要です。」との文言が記載されていたと認めることができる。
これは、前記訴訟事件につき、不公平な裁判がなされるであろうとの懸念を当事者に起こさせるに足りる客観的な事情に該当するというべきである。
そうすると、本件忌避の申立ては、理由があるので認容することとし、主文のとおり決定する。
「答弁書の作成」で紹介しているように、裁判所は、通常は、訴状副本、期日呼出状兼答弁書催告状とともに、答弁書を提出せずに欠席すると不利な裁判がなされる可能性が高いこと等を記載した説明文や答弁書のひな型、その記載例等を同封しています。
この事例では、裁判官が、通常の事件での送付物の記載とは異なり、請求の原因に対する認否や反論はしなくてもいいという指示をしているのですから、当事者は奇異に思うでしょうし、弁護士に相談すれば、裁判官は被告の言い分を聞くまでもなく原告敗訴になると判断したと見るでしょう。
そういった点が、通常人の目から見て、公正な裁判を期待できないと評価されたということです。
弁護士の目からは、裁判官が訴状と訴状訂正申立書(補正依頼してもなおどうしようもない代物というとき)だけで原告敗訴の心証を持つということは、いくらでもあると思いますし、それ自体が悪いとは言えないわけです。補正依頼してもどうしようもなければ、民事訴訟法は被告に訴状副本を送達するまでもなく訴状却下という方法を定めているわけで、そうしていれば忌避の問題にもならないわけです。そうしなかったというところに問題があったのかも知れませんが、この件が特に忌避に値するかというと、ちょっとしっくりこない感じもあります。
民事裁判の手続全般については「民事裁判の審理」でも説明しています。
民事裁判の登場人物についてはモバイル新館の 「民事裁判の登場人物」でも説明しています。
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