◆短くわかる民事裁判◆
答弁書の作成
被告に送達される訴状副本等には、通常は第1回口頭弁論期日の1週間前の日までに答弁書を提出するよう指示する答弁書催告状が同封されています。そして多くの場合、裁判所からの訴えを提起された方へなどの表題の説明書と、手書きで記入できる答弁書の書式も同封されています。
そうすると、弁護士に相談しない一般の被告は、同封されている答弁書書式に書き込んで答弁書を作成すべきもの(そうしなければならないもの)と思い込み、また答弁書催告状記載の期日までにそれを完成させて提出しなければならないものと思い込みがちです。
同封されている書式を用いれば、容易に答弁書を作成できますので、ある意味では便利と言えますが、そこには落とし穴もあります。
裁判所の書式は、訴状については事件類型ごとに用意されています(もちろん、実際の事件はそれぞれ事情がいろいろあって用意されているひな型でそれが十分考慮されているものではありません)が、答弁書についてはあらゆる事件で共通のほとんど内容がない代物です。東京簡易裁判所が用意している書式の一覧はこちら、そのうち答弁書の書式はこちら
実際に出された訴状に対応するような答弁書書式は作れませんから仕方がないのですが、利用する側はそのことを十分に意識すべきです。
裁判所から送られてくる答弁書の書式には、「分割払いを希望する」という項目があるのがふつうですが、貸金請求等の裁判で、これにチェックすると、債務を承認したことになり、よく検討すれば(弁護士に相談すれば)消滅時効が成立しているケース(それを主張すれば原告の請求が棄却されて被告の勝訴となる)であっても消滅時効の主張ができなくなってしまいます(それについては「借金の消滅時効」で説明しています)。しかし、裁判所から送られてくる書類にそのことが注意されていることはないと思います。
また、提訴する裁判所は原告が選びますので、被告にとっては別の裁判所(被告住所地の裁判所)で審理してもらいたいと思っても、管轄違いの主張などは、それを主張しないで訴状の請求の原因について認否するような答弁書を提出して第1回口頭弁論期日を迎えてしまうと、その後はできなくなるものがありますが、裁判所のひな型ではそれがわからず、管轄違いの主張ができなくなるような答弁書を作成することが予想されます。
請求の原因に対する認否も、書かれている事実が、一般論としてではなく、この原告の請求と主張の中でどういう意味を持つのかを検討すれば、より細かく区分してここは認めるがここは否認するべきものなどを、大筋はそうだと考えて「認める」としてしまうようなことがあれば、後で撤回することは難しく、裁判の展開を大きく不利にしてしまうことも考えられます。
弁護士の目からは、答弁書の作成は、その訴状の具体的な記載に応じ、事実関係と証拠をよく検討し、被告側でどのような主張が全体として想定できるかを考えた上で、それに合わせ、少なくともその後の主張の障害とならないように行わなければなりません。
短い期間に、よく検討しない/検討する余裕がないままで、裁判所から送られてきたひな型に書き込んでとりあえず提出するというのはまったくお薦めできません。
答弁書の提出期限は、守った方がいいでしょうけれども、決して絶対のものではなく、期限を守ることよりも内容が正しく適切であることを優先すべきです。そして、答弁書提出期限までによく検討できないときは、請求の趣旨に対する答弁(通常は、1.原告の請求を棄却する。2.訴訟費用は原告の負担とする。)のみで、請求の原因に対する認否及び被告の主張は追って提出するという裁判業界では「3行答弁書」とも呼ばれる答弁書を出しておけば足ります。十分な検討ができていない答弁書を提出するくらいなら3行答弁書の方が遙かにましです。
訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
モバイル新館の 「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
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