◆短くわかる民事裁判◆
不備が補正ができない訴状の却下命令
訴状が必要的記載事項(当事者及び法定代理人、請求の趣旨及び原因:民事訴訟法第133条第2項)の記載を欠いている、あるいは適法な記載でない場合、裁判長が相当な期間を定めてその期間内に不備を補正すべきことを命じ(補正命令:民事訴訟法第137条第1項)、原告がその不備を補正しない場合は、裁判長は命令で訴状を却下することとされています(民事訴訟法第137条第2項)(裁判所と裁判長の仕分けが気になる方は「裁判長と裁判所」をお読みください)。
規定上、裁判長による訴状却下命令は、裁判長が補正命令を発し、原告がそれに従わないことが要件ですが、訴状の不備日がその性質上補正の余地がないときはどうすべきでしょうか。
民事訴訟法は、「訴えが不適法でその不備を補正することができないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、訴えを却下することができる。」と定めています。そもそも補正ができない場合には、補正命令は馴染まないので、こちらによるべきでしょうか。
最高裁1989年1月20日第二小法廷判決は、天皇を被告とした訴訟について「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばないものと解するのが相当である。したがって、訴状において天皇を被告とする訴えについては、その訴状を却下すべきものである」としています。
そうすると、その場合、訴状の必要的記載事項である「当事者」の記載が不適法で補正の余地がないので、補正命令を経ずに裁判長が命令で訴状却下できると、最高裁は解しているようです。
なお、不備が補正できないとしてなされた訴状却下命令に対する不服申立ては、即時抗告になります(民事訴訟法第137条第3項)。
口頭弁論を経ないでなされた(訴状却下命令の場合は口頭弁論を経てなされることは想定されませんが)訴状却下命令や却下判決が確定すると、訴え提起手数料の一部について還付を受けることができます。
訴え提起手数料の還付については、「手数料還付」で説明しています。
訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
モバイル新館の「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
**_****_**