◆短くわかる民事裁判◆
原裁判所での手続(即時抗告)
「即時抗告の申立て」で説明したように、即時抗告は、抗告裁判所(決定が地裁なら高裁)宛の抗告状(こうこくじょう)を原裁判所(地裁の決定ならその地裁)の民事受付に提出して行います。
即時抗告状が提出されると、原裁判所の民事受付は、地裁の場合事件記録符号(ソラ)、簡裁の場合(ハソ)の事件番号を振った上で、原決定をした部に即時抗告状を回します。
即時抗告状の審査の権限は、抗告裁判所にあります(民事訴訟法第331条、第288条)ので、原裁判所は即時抗告状の内容についての判断は原則としてできません。
しかし、抗告が不適法でその不備を補正することができないことが明らかなときは原裁判所が決定で抗告を却下することとなっています(民事訴訟法第331条、第287条第1項)。原裁判所が却下する場合としては、抗告期間経過後に抗告がなされた場合、抗告権を放棄した抗告人からの抗告である場合、抗告が許されない裁判に対する抗告である場合、二重に抗告がなされた場合などが考えられるとされます(2000年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版318ページ)。
原裁判所が即時抗告を却下したときは、その決定に対してまた即時抗告をすることができます(民事訴訟法第331条、第287条第2項)。原裁判所の却下決定に対する即時抗告は、「抗告裁判所の決定」に対するものではないので、再抗告ではなく、通常の(最初の)即時抗告になります。
即時抗告に際して抗告提起手数料が納付されていない場合の(手数料納付を命じる)補正命令や補正命令に応じない場合の抗告状却下命令も抗告裁判所の裁判長の権限です(民事訴訟法第331条、第288条)ので、原裁判所では補正命令や抗告状却下はできません。
抗告状の写し(及び抗告理由書の写し)の相手方への送付は、抗告裁判所が行うこととなっています(民事訴訟規則第207条の2)ので、原裁判所段階では相手方には何も送付されません(抗告に理由がないと認めるときや抗告状の写しを送付することが相当でないと認めるときは送付しなくてよいので、現実には抗告裁判所でも送付しないことが多いのですが)。
抗告人は、抗告状に抗告理由を具体的に記載していないときは、抗告提起後14日以内に、抗告理由書を原裁判所に提出しなければなりません(民事訴訟規則第207条)。(これについては「即時抗告の申立て」で説明しています)
ただし、特別抗告や再抗告とは異なり、期限までに理由書が提出されなかったということだけを理由に原裁判所が却下することはできません(民事訴訟法第316条第1項第2号が準用されておらずこれに相当する規定がないため)。
抗告の場合(即時抗告に限らず)、抗告の対象である決定をした原裁判所あるいは抗告の対象である命令をした裁判長は、抗告に理由があると認める場合は、自ら原決定・命令を更生(こうせい:内容を改めること)しなければならないと定められています(民事訴訟法第333条)。これを裁判業界では「再度の考案(さいどのこうあん)」と呼んでいます。検討した結果抗告に理由がないと認めるときは、原裁判所は抗告に対する意見をつけて記録を抗告裁判所に送ります(民事訴訟規則第206条)。この意見は、多くの場合「本件抗告は理由がないものと思料する。」という程度の簡単なものと言われています(2000年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版322ページ掲載の意見書の参考例。私が事件記録を閲覧して見たものも、そういうものでした)。
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