◆短くわかる民事裁判◆
費用計算書:複数人からの請求
当事者が複数の事件での訴訟費用の負担について検討します。
民事訴訟法は、「共同訴訟人は、等しい割合で訴訟費用を負担する。」と定めています(民事訴訟法第65条第1項本文)。したがって、被告が2人の事件で訴訟費用負担の裁判が「訴訟費用は被告らの負担とする。」とされれば、各被告が2分の1ずつ負担することになります。
当事者が複数の場合の訴訟費用は、訴え提起手数料については、請求額で按分し、それ以外の訴訟費用は、特定の当事者に発生したものは個別に扱い、共通の費用は頭割りするということになっています(特に法令の定めはありませんが、実務上そのように扱われています)。
原告A、B、Cの3人が共通の代理人(弁護士)に依頼して、被告に対して、Aが500万円、Bが300万円、Cが200万円を請求し、第3回期日にCと被告の間で和解が成立し、A及びCと被告の間で判決があり、「訴訟費用は、これを5分し、その2を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。」とされたとします。
訴え提起手数料5万円(請求額合計1000万円に対する印紙代→「訴え提起手数料:訴状に貼る印紙」参照)は請求額で按分し、Aに発生した費用が2万5000円、Bに発生した費用が1万5000円、Cに発生した費用が1万円となります。
送達費用がけっこう面倒なことになりますが、訴状送達費用が1380円、和解調書送達費用が1220円(原告側は裁判所に取りにいったとして)、判決送達費用が2580円(原被告双方に送達)だけだった場合(その場合、返還郵券は820円)、訴状送達費用は3人の頭割りで、A、B、Cそれぞれに460円ずつ、和解調書送達費用はBだけに発生し、判決送達費用はAとCの2人の頭割りで、それぞれに1290円発生します。その結果、送達費用は、Aに発生した費用が1750円、Bに発生した費用が1680円、Cに発生した費用が1750円となります。
代理人の期日出席が6回で、旅費が1回300円であった場合、各期日の代理人の旅費日当合計が4250円となり、第1回期日から第3回期日までの分は3人の頭割りで各1416.6円、第4回期日から第6回期日までの分はAとCの2人で頭割りになり、各2125円となります。その結果、Aに発生した費用が1万0625円、Bに発生した費用が4250円、Cに発生した費用が1万0625円となります。
本人の期日出席がA、Cともに本人尋問期日の1回で、Aの旅費が300円、Cの旅費が660円とすると、Aに発生した費用が4250円、Cに発生した費用が4610円となります。
書類の作成・提出費用2500円については、明示している文献が見当たりませんが、たぶん3人で頭割りとなると考えられ、それぞれ833.3円となります。
なお、訴訟費用額確定処分の申立人はAとCの2人で、訴訟費用額確定処分の送達費用2440円は2人で頭割りになり、それぞれ1220円となります。
そうすると、全体として、Aに発生した費用は4万3678.3円、Bに発生した費用は2万1763.3円、Cに発生した費用は2万9038.3円となります(端数は合計額で四捨五入:通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第3条第1項)。
訴訟費用の負担は、Bと被告の間では和解が成立していますので各自負担となります(それについては「和解と訴訟費用の負担」で説明しています)。A及びCと被告の間では、被告の負担割合は5分の3ですので、Aが被告に支払を求める訴訟費用は4万3678.3円の5分の3で2万6207円、Cが被告に支払を求める訴訟費用は2万9038.3円の5分の3で1万7423円となります。
このケースで、被告側からの訴訟費用についての考え方と、書記官の意見の催告書に対する被告の応答、それを受けての書記官の処理(相殺処理)について、「費用計算書:複数人に対する請求」で検討し、説明します。
※実際の場面で意味があるように、よくある設例のようにきれいに割り切れるが現実にはあり得ない金額にせず、現実的な数字を設定しました。また複数人であることで単純計算では済まなくなるように、1人が途中で和解で抜ける例(消費者金融に対する過払い金請求訴訟を原告複数で行った場合などにはよくあるケース)を設定しました。その結果複雑になりすぎ(今回いろいろ参考にさせていただいた2018年度書記官実務研究報告書「民事訴訟等の費用に関する書記官事務の研究」でさえ、そういう設例の解説がなく、結果、途中で1人抜けたときの書類の作成・提出費用の処理に確信が持てませんでした)、どこか計算を間違えているかも知れません。その節はご容赦を。
訴訟費用とその取り立てについては「訴訟費用の取り立て(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の 「訴訟費用の負担(訴訟費用の取り立て)」でも説明しています。
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