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短くわかる民事裁判◆
和解と訴訟費用の負担
 裁判で和解するとき、実質的な和解の条件を定めた上で、「原告はその余の請求を放棄する」、「原告と被告は、本日現在、原告と被告の間に、本和解条項に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する」などの精算条項とともに、「訴訟費用は各自の負担とする」あるいは「和解費用は各自の負担とする」という条項を置くのが、ほぼ決まりごとになっています。和解条項は、当事者双方が合意すれば(裁判所が目を剥くような公序良俗に反するような条項でなければ)どのような条項を定めてもかまわないのですが、精算条項がなければ、蒸し返しが可能で、それでは解決したことにならないので、精算条項はマストといえます(裁判の対象となっていることと別のことで未解決の問題があり、それは現時点では合意できないが、別途解決したいということであれば、精算条項に「本件に関し」と入れるのが通例です)。そして、訴訟費用の各自負担も、裁判業界ではごく常識的なお約束になっています。
 訴訟費用は各自の負担となれば、それまでに支出している訴訟費用は相手に請求できず、そのまま持ち出しで終わります。たいていの場合、訴訟費用として支出しているのは訴え提起手数料予納郵券ですから、訴訟費用が各自負担となれば、原告側が持ち出しになります。原告側が訴訟救助を受けている場合は、未納付の訴え提起手数料を全額納付しなければならなくなります(ただし、資力が回復していないときに直ちに裁判所から支払命令が出るということでもないということを「訴訟救助事件終了時の受救助者への支払命令」で説明しています)。和解するときに、そこに意識が行っていないことがあるので、注意する必要があります。
 もし、和解はするけれども訴訟費用は請求したいということであれば、和解条件を詰める中でいっておく必要があります。和解条項で、訴訟費用は被告の負担とするというような条項を被告が飲むことはあまり考えられない(私はそういう経験をしたことがない)ので、最初から解決金の額をそれを織り込んだ額で交渉するというのが現実的なところかと思います。解決金の額が決まってから、訴え提起手数料分を積めというやり方は、相手方の不興を買うのがふつうです。

 なお、民事訴訟法は、和解条項で和解費用や訴訟費用の負担について特別の定めをしなかったときは、その費用は各自の負担とすると定めています(民事訴訟法第68条)。

 訴訟費用とその取り立てについては「訴訟費用の取り立て(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
  

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