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短くわかる民事裁判◆
高裁による特別抗告却下決定に対する許可抗告
 高裁の決定に対する特別抗告について、その高裁が特別抗告理由書記載の理由が実質は法令違反をいうものに過ぎず憲法解釈の誤りその他の憲法違反に当たらないとして、却下する決定をした場合(特別抗告理由書の記載が抗告理由の体をなしていないと判断されたときなどには、そういうことがあります)、最高裁の判断を経ずに、それも特別抗告の対象となる元の決定をした高裁の判断で、憲法違反に当たらないとされたことになります。
 しかし、この特別抗告の却下決定自体、高等裁判所の決定ですので、これに対して特別抗告や抗告許可申立てができます(そのことについては「高裁による特別抗告却下決定」で説明しています)。
 そういう高裁による特別抗告却下決定がなされたケースで、抗告許可申立てをして(それが許可され)、最高裁が、「特別抗告の理由として形式的には憲法違反の主張があるが、それが実質的には法令違反の主張にすぎない場合であっても、最高裁判所が当該特別抗告を棄却することができるにとどまり(民訴法336条3項、327条2項、317条2項)、原裁判所が同法336条3項、327条2項、316条1項によりこれを却下することはできないと解すべきである」、つまり抗告理由があるかどうかを判断するのは最高裁であって原裁判所(高裁)にはその権限はないという理由で高裁の特別抗告却下決定を破棄したことがあります(最高裁2009年6月30日第三小法廷決定→こちら)。

 上告や上告受理申立てについて、高裁が同様の却下決定をして、それに対する許可抗告について最高裁が同様の理由で認容し、高裁の却下決定を破棄しているケースはわりとあって、判例雑誌の「判例時報」に年1回程度掲載されている「許可抗告事件の実情」で繰り返し紹介されています(その事例については「高裁による上告却下決定に対する許可抗告」で整理しています)。その記事で執筆者の最高裁調査官が呆れ気味にしていますが、最高裁が度々そういう決定をしているのに、理由書の記載内容が上告理由や上告受理理由に当たらないとして却下決定をする例が今なおあることには驚きます。その却下決定も、それに対して抗告人が抗告許可を申立て、かつ高裁が抗告許可をして初めて最高裁の目に触れるわけで、闇に葬られているケースがいったいどれだけあるのかわからないわけです。

 もちろん、最高裁が、最高裁の目に触れればいつでもそういう判断をしてくれるというわけではないでしょうし、高裁による却下が破棄されてその特別抗告が(通常どおり)最高裁に回っても、高裁が理由の記載が最高裁判所規則で定める方式によっていないとして却下したくなるような特別抗告理由書を見て、最高裁がその特別抗告を認容するとは思えませんが。
(実際、高裁による上告却下決定に対して特別抗告がなされた場合、最高裁は、高裁が上告理由に当たらないとして却下したことは法令解釈を誤ったものだが、原決定に憲法の違反があるとはいえない(だから特別抗告の理由はない)とするとともに、本件の上告は明らかに上告理由に当たらないことを判示して、特別抗告を棄却しています(最高裁1999年3月9日第三小法廷決定→こちら)。)

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