意外とめんどうな残業代請求
時間外労働時間の計算
法定労働時間と法定休日
所定労働時間・所定休日と法内残業
法外残業時間の計算
賃金単価(1時間あたり賃金)の計算
計算の基礎となる賃金
1時間あたり賃金の計算
割増賃金の計算
遅延損害金と付加金
労働時間の立証
名ばかり管理職
みなし労働時間制
定額残業代
相談に当たって
労働事件をやっている弁護士にとって、実は、残業代請求は意外に手間がかかりめんどうな事件です。ネットでは簡単にできるようなことが書かれていたりしますが、どうやってやるんだろうと思います。
どうしてかというと、残業代を(裁判とかで)請求するためには、請求する期間の1日1日について何時から何時まで働いたのかを、立証しなければなりません。タイムカードとか出勤管理簿とか業務開始時刻と業務終了時刻を記載したものを労働者が持っていればいいのですが、本人のメモとか、さらには「毎月何時間は残業してました」なんておおざっぱな話だとなかなか裁判所を説得できません。
さらに、労働時間が立証できるとして、実は会社によって労働時間や休日、賃金支払の制度が様々で、具体的な残業代計算は、まじめにやるとかなり神経を使うし難しい。この点も弁護士の立場からは、最低限労働契約書と就業規則(賃金規程も)は持ってきてもらわないと、計算のしようがない(まぁ就業規則が存在しない小規模会社なら、それはそれでやり方がありますが)。
使用者側でも残業代の削減には強い関心があるので、顧問弁護士と様々な制度というか対策を講じていて、法的にもけっこう微妙なケースがあります。
その上、残業代というか賃金(給料)の請求の時効期間はわずか3年ですので、遡って請求できるのはせいぜい3年分(2022年4月1日より前は遡って2年分しか請求できませんでした。2023年4月以降の請求では遡って3年分請求できるようになりました)。さっさと提訴しないと毎月1か月分時効消滅して行きますからタイムリミットの問題もあり、請求できる金額はそれほど大きくない(従って、取れた分の11%くらいの弁護士報酬も大きくない)ということになります。
そういうことから、ふつうに労働事件をやっている弁護士にとっては、残業代請求は、ボランティア色の濃いあるいは趣味と主義の事件になります。
法定労働時間と法定休日
労働基準法では、1週40時間(これも実は物品の販売や賃貸、理容、演劇興行、病院、療養施設、飲食店、接客娯楽などの事業で従業員が常時10人未満の場合は44時間という例外があります。労働基準法は、実に例外が多い法律です)、1日8時間の労働時間の上限を定めています(これが法定労働時間です)。また労働基準法は、1週に1日の休日(就業規則で4週間で4日の変形休日制を定めている場合は毎週でなくても4週間で4日でよい。実際にはあまりないと思います)を労働者に与えることを定めています(これが法定休日です)。
こういうと法定労働時間以上の残業や法定休日の労働は違法と思えますが、使用者は労働者の過半数を組織する労働組合または従業員の過半数を代表する者と書面で協定し(労働基準法36条で定められていることから、これを36協定といいます)労働基準監督署に届け出ることでこの労働時間を延長し、また法定休日に労働させることができます。たいていの会社はこれによって、法定労働時間の制限を超えて、また法定休日にも労働者を労働させているわけです(36協定なく労働基準法の法定労働時間を超えて残業させることは違法です。実際には小規模の事業者では36協定なく残業をさせているところが少なくないと思います。その場合は、労働基準監督署に違反申告をして是正指導してもらうというやり方もあります)。その結果、多くのというかまっとうな会社では、法定労働時間や法定休日は、法定労働時間以上の残業をしたり法定休日に労働した場合は割増賃金を請求できるという意味しかありません。
所定労働時間・所定休日と法内残業
さて、残業代請求をするときに請求できるのは、法定労働時間を超えた残業分や休日労働分だけではありません。
多くの会社では、労働契約や就業規則で決まっている労働時間(これを所定労働時間といいます)は、法定労働時間より少なく、休日(所定休日)は法定休日より多くなっています。比較的大手の会社では、始業時刻が午前9時、終業時刻が午後5時、正午から午後1時までの1時間休憩、土日は休日(週休2日制)となっていることが多いと思います(サービス業では休日が別の曜日だったり、シフトで変わったりするでしょうけど)。この場合、1日で見れば所定労働時間は7時間(昼休みの休憩中は労働時間ではないから)、週の所定労働時間は35時間で、所定休日は週2日あるわけです。このケースで午後6時までは残業をしても法定労働時間内です。また週2日の休日のうち1日休日出勤をしても、1日休みがあれば法定休日の労働にはなりません(こういうのは業界では法定外休日労働といっています)。こういう労働基準法の割増賃金の対象とはならない残業を、業界では法内残業と呼んでいます。これに対し、法定労働時間を超えた残業を、業界では、法外残業と呼んでいます。法定外休日労働も、休日労働としては労働基準法の割増対象になりませんが、1週の法定労働時間を超えた部分は法外残業として割増の対象となります。(「法外残業」と「法定休日労働」が割増賃金の対象で、「法内残業」と「法定外休日労働」は割増賃金の対象外、ただし「法定外休日労働」は1週の時間制限との関係で「法外残業」になり得る。ほんと紛らわしい言い方ですよね)
ここで注意したいのは、通常の給料(所定賃金)の対価となっているのは所定労働時間ですから、法内残業・法定外休日労働も通常の給料では支払われていない残業だということです。ですから残業代請求をするときには、この法内残業・法定外休日労働も、残業手当が支払われていなければ、請求対象となるのです。ただ労働基準法の割増の適用がないというだけです。会社によっては、就業規則等で法内残業についても割増賃金を支払うという規定がある場合もあり、その場合はその規定に従って割増した賃金を請求できます。そうでない場合は、法内残業・法定外休日労働(法外残業にならない場合)は、後で説明する1時間あたり賃金を請求することになります。
法外残業時間の計算
法外残業時間の計算は、まず1週間ごとに週の初めから、1日の労働時間を計算し、1日8時間を超えた労働時間を法外残業として確定していき、法内労働時間を足していって1週の法定労働時間となった後はすべて法外残業としてカウントします。
はい、何か奥歯に物が挟まったような言い方をしてますね。先に説明した1週の法定労働時間の例外の問題の他に、実は1週の法定労働時間の起算点と法定休日の特定という、マニアックな問題があります(本当はこれが確定しないと訴状さえ書けないんですが、これだけ残業代請求の裁判が起こされているのに解決されていません)。
ここでは、説明に都合がいいように、就業規則で1週の起算点が通常の生活に合わせて月曜日と定められているとして(そういう定めがある場合は実際にはほとんどないようですが)、具体的に説明してみましょう。所定労働時間が月曜日から金曜日午前9時から午後5時、正午から午後1時まで休憩、土日は休日という会社で、月曜日から日曜日まで休みなく次のように働いた場合
月曜日 午前9時出社、午後8時退社 法内残業1時間、法外残業2時間
火曜日 午前10時出社、午後4時退社
水曜日 午前9時出社、午後11時退社 法内残業1時間、法外残業5時間(時間外深夜1時間を含む)
木曜日 午前9時出社、午後9時退社 法内残業1時間、法外残業3時間
金曜日 午前9時出社、午後8時退社 法内残業1時間、法外残業2時間
土曜日 午前9時出社、午後5時退社 法内残業3時間、法外残業4時間
日曜日 午前9時出社、午後7時退社 (法定)休日労働9時間
という評価になります。1日8時間の方は簡単ですね。月曜、水曜、木曜の法内残業1時間は所定労働時間を超えて1日8時間に達するまで、つまり午後5時から6時の1時間です。問題は、1週40時間の方です。週の初めから、法外残業とならない時間を足していきます。月曜日が8時間、火曜日は遅刻と早退があって実労働時間が5時間ですから、これを足して、水曜日8時間、木曜日8時間、金曜日8時間で、ここまでで37時間になります(火曜日に遅刻・早退なく午後6時を過ぎて残業していれば、金曜日までで40時間になります)。土曜日は所定休日ですが、法定外休日です(マニアックな話の部類ですが、週に複数の所定休日があって就業規則等で法定休日が決められていないときに1日も休まなかった場合は後の休日が法定休日扱いされます)から通常通りに積算して、午前9時から正午までの3時間労働したところでこの週の法外残業とならない労働時間が40時間となります。その後の労働時間は1日8時間に達しなくてもすべて1週40時間の法定労働時間との関係で法外残業となります。日曜日は、法定休日出勤で、(ここがまたマニアックな話になりますが)時間外規制と休日規制が別立てなので、法外残業に積算せずに、独立にすべての時間を法定休日労働時間とカウントします。その結果、上の例では、この週は法内残業7時間、法外残業16時間(うち時間外深夜1時間を含む)、法定休日労働9時間とカウントされます。
こういう計算を、月ごとに集計していきます。ちなみにこの「月ごと」がいつからいつまでかはその会社の賃金の計算基準日に応じて決まります。給料が月末締めなら暦に合わせて計算することになりますが、例えば15日締めだったら16日から翌月の15日までの1月でこの作業をすることになります。
しかも、大規模会社は2010年4月1日から、中小企業も2023年4月1日から、法外残業が1月60時間を超えると割増率が上がるという規制が施行され、その適用がある企業の場合、60時間以内と60時間超も区分けしてカウントすることになります。
時間外労働時間の月ごとの集計に際して、就業規則等で30分未満の端数を切り捨てると定めている会社がよく見られますが、残業代請求の際には、これは無視して切り捨てをすることなく計算できます。
残業代請求をする際には、割増賃金の計算をする前に、1時間あたり賃金を計算しなければなりません。
これも、実は意外にめんどうなことがあります。
計算の基礎となる賃金
ここで計算の基礎となる賃金は「通常の労働時間または労働日の賃金」とされ、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まれません。給与明細を見ながら、時間外手当が払われている場合は、もちろんそれを差し引き(通常の労働時間の賃金ではありませんから)、これらの手当に当たるものを差し引いて基礎となる賃金を計算します。住宅手当でも住宅に必要な費用と関係なく定額一律のものは差し引き対象とならず、算入します。臨時に支払われた賃金の代表的なものは賞与(ボーナス)ですが、年俸制で単に年俸の一定割合を賞与に充てている場合のように最初から支払う額が確定しているものはこれに当たらず、算入します。
1時間あたり賃金の計算
1時間あたり賃金は、月給制の場合、この計算の基礎となる賃金を1月の所定労働時間で割った額となります。
しかし、ふつうの会社では、所定労働時間は1月単位では決められていません。その場合、年間の所定労働時間を12で割って1月の平均所定労働時間を出します。
そのためには労働契約書や就業規則等で所定休日と所定労働時間を確認する必要があります。1日の所定労働時間が7時間で所定休日が土日と国民の祝日、12月29日から1月3日というありがちな規定であった場合、2023年の労働日は年間245日で、1日7時間の所定労働時間をかけると1715時間、月平均所定労働時間はそれを12で割って142.92時間となります。
1日の所定労働時間が一定の会社はまだいいですが、曜日によって所定労働時間が違う会社も存在し、さらにめんどうな計算を強いられることもあります。
注意深い人は気付いているでしょうけど、この計算は年によって微妙に変わりますので、まじめにやる限り年ごとに計算することになります(まぁ計算の基礎となる賃金も変わることが多いですしね)。
労働基準法が定める割増率は、法外残業が25%、深夜(午後10時から午前5時まで)が25%、法定休日が35%です。これらの重複があったときについては、時間外深夜が50%、法定休日深夜が60%とされ、他方時間外規制と休日規制が別立てと解されているため法定休日時間外は(法定休日に8時間を超えて働いても)ただの35%と解釈されています。
月60時間規制の対象となる会社(2023年4月1日以降はすべての使用者。2023年3月末までは小売業で資本金5000万円超かつ従業員50人超、サービス業で資本金5000万円超かつ従業員100人超、卸売業で資本金1億円超かつ従業員100人超、その他の事業では資本金3億円超かつ従業員300人超)では、月の法外残業時間が60時間を超えた後の法外残業は50%、時間外深夜は75%となります。このときに法定休日や法定休日の時間外はどうなるのか、明確な規定はありませんが、労働基準監督署に私が問い合わせた限りでは、それでも35%だという見解のようです。そうなると、むしろ月の法外残業が60時間を超えた後は、出勤した休日を法定休日と認定されるよりも法定外休日と認定される方が割増率が高くなり、私は絶対おかしいと思います。
さて、先に計算した法外残業、法定休日労働時間を、この割増率ごとに仕分けして、1時間あたり賃金に対象となる時間をかけ、割増率をかけて、月ごとに合算するという作業を請求期間(多くの事件では3年間)分やって(これに給料日から訴訟提起日までの遅延損害金を計算して)ようやく請求する残業代が計算できます。
このとき、所定時間外である限り、本来の賃金も支払われていませんから、1時間あたり賃金に対して、法内残業は100%、法外残業は125%、深夜残業は125%、時間外深夜は150%、法定休日は135%、法定休日深夜は160%の請求になるのが通常ですが、対象時間が所定労働時間内の場合は通常の賃金分(100%分)は支払われていますので、例えば所定時間内深夜は25%の請求になります(もともとの労働時間が午後10時から午前5時を含んでいる場合。ただし、その場合は最初から所定賃金に深夜割増賃金が含まれているという主張が出る可能性が高いと思います)。また、マニアックな話の1週40時間の起算点と法定休日の特定の決め方によっては、所定労働時間内なのに法外残業というとんでもないケースも出てくるので、その時はその対象時間は25%請求になります。
さらに休日労働について後から代休を取った場合(事前に法定休日を振り替えた場合は休日自体が移動するので法定休日労働になりません)、割増分だけの請求となり、35%請求になります。さらにマニアックな話として、この代休消化をいつまでにすべきかという問題もあって、代休取得がその月を超えたら135%支払うべきか、そうしたら代休日の賃金はどうなる、給与計算の締めの関係でそれももつれたり、会社の社内規定でその処理が定められていたりとかの問題も一応あります。
未払いの賃金(残業代を含む)請求の遅延損害金は、それぞれの給料日の翌日から年3%、退職日の翌日から年14.6%で請求します。
※支給日が2020年3月31日以前の賃金については、使用者が会社の場合年6%、個人や公益法人等の場合は年5%でした、
未払いの残業代については、裁判の際には、付加金請求をします(付加金については「解雇予告手当」で説明しています)。
この場合、付加金が割増部分についてのみ命じられるのか、通常の賃金部分についても命じられるのか、つまり法外残業について25%部分の額だけなのか、125%分の額なのかは、判例で特に理由の説明はありません(付加金は労働者が請求することが必要ですが、支払を命じるかどうかは裁判所の裁量とされているので、判決であまり理由は書かれません)が、125%分を前提に命じているものが相当ありますので、その前提で請求します。
残業代請求の計算の理屈と実務はここまでで、おおかた説明しました(たいていのサイトより詳しいでしょ。普通人が読むのがいやになるくらい。私も書いてていやになりますもん)。
しかし、残業代請求の裁判で、最もめんどうなのは、労働時間の立証です。現実の労働時間と合っているタイムカードや出勤管理簿、業務日報とかがあるケースはまだいいのですが、そういうものがなくて使用者側に労働時間を争われると、とたんにものすごくめんどうな裁判になります。
裁判所は、タイムカードや出勤管理簿、業務日報等の基本的に業務の過程で日々作成され、しかも会社が保管しているものによって始業時刻と終業時刻が立証されれば、使用者側がその記載は信用できないなどと主張しても、基本的には取り合わずこれらによって始業時刻と終業時刻を認定するのがふつうです。それ以外でも、例えば今どきのホワイトカラーならば勤務時間中はパソコンをつけているでしょうから、そのパソコンの起動時刻とシャットダウン時刻が立証できれば始業時刻と終業時刻がそれによって認定できることになります。このとき、労働者側で予め(残業代請求や退職の前に)データを保存しておくなり、あるいは毎日パソコンの起動直後とシャットダウン直前に会社のパソコンから自分か家族宛にメールを送っておくとかの工夫をして、客観的な立証手段を確保しておけば、立証が容易になります。
日々のメモでも、当然無いよりはましですが、それだけではなかなか裁判所はそれで労働時間の認定はしてくれません。裁判は相手方のあることで、相手方が労働時間そのものは争わないというケースなら証拠がほとんどなくても認められることがありますが、労働時間自体を争われた場合は、証拠がないとかなり厳しい状況に追い込まれます。
さて、始業時刻と終業時刻が認定されればそれでもう勝てるかというと、そうとは限りません。使用者側が、始業時刻と終業時刻は認めるが、その間労働していたことは争うということもあります。この場合、裁判所は始業時刻と終業時刻の間は(定められている休憩時間を除いて)労働していたものと推定するのがふつうですので、労働していなかったことは会社側で立証することになります。多くのケースでは会社側の立証は失敗しますが、客観的な証拠で具体的に業務外のことをしていたことが立証される(例えば業務外の買い物をしていてその時刻が入ったレシートが提出されるとか、業務と明らかに関係ないサイトを見ていたことがパソコンのログで提出されるとか)と、労働していたことの推定が破れてしまいます。
実際には昼休み時間も労働していたというケースはよくありますが、休憩時間については裁判所は労働していたと推定してくれません。昼休み時間についても労働時間として残業代請求をするためには、昼休みにも現実に労働していたことを労働者側で立証することになりますが、ハードルは高いのが実情です。
業務の種類によっては、作業の準備時間とか、仮眠時間とかがあってそれが労働時間といえるかが争われることもあります。そういった場合にはその作業等の本来業務との関係や会社側の指揮命令が及んでいるか、事実上命じているかというようなことを考えながら対応していくことになります。
会社側が残業を払わないケースの代表的な例としては、管理職だといって支払わないケースです。
マクドナルドの店長の裁判でこの問題が有名になりましたが、労働裁判の中では、残業代を支払わなくていい「管理監督者」と裁判所が認めたものはかなり少ないのです。マクドナルドの裁判の報道の時、労働事件をやっている弁護士の感覚では、こんなの管理監督者と認められるはずないでしょ、マスコミは何を騒いでるんだろと思っていました。
管理監督者と認められた場合でも、深夜割増の適用はありますので、残業代がまったく払われないということではありません(ふつうの会社は管理職扱いして残業代を支払わない場合でも、深夜割増分は支払っています)。
名ばかり管理職については、「名ばかり管理職」を見てください。
会社側が残業代減らしのために用いる方法は、管理職扱いの他に各種のみなし労働時間制があります。労働基準法には、事業場外労働のみなし労働時間制と専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制があります。これらの制度が法律に則ってきちんと設けられて運用されている場合、現実の労働時間が法定労働時間を超えていても、予め定められた時間労働したものとみなされてしまう結果、残業代請求ができないという事態になります。
しかし、みなし労働時間制が設けられている場合でも、その要件を満たしているか、また定められたみなし時間が不当に短くないかなどで争う余地はあります。
会社側から、特定の手当が一定の時間の残業代の趣旨だとか、基本給の中に一定時間の残業代が予め組み込まれているという主張がなされることがあります。
このような場合には、それが労働契約や就業規則などできちんと定められ労働者に説明されているのか、その手当の支給の実情や設けられた経緯からみて残業代として支払われていると考えられるか、その手当なり基本給のうち残業代に相当する部分が明確に区分できる形になっているのか、何時間分の残業代に相当するのか、本来の残業代がその額を超えたときには直ちに差額を払うことが定められているのか、現実にそういう運用がなされているのか等が問題となります。
近年では、会社側が手当についての就業規則や雇用契約書の規程を慎重に定めるようになり、会社側の定額残業代の主張が認められるケースが増え、残業代請求では重要な問題となってきています。
会社側の諸規定、入社時の説明、入社後の変更の場合は特にその経緯等をよく検討して対応することが必要です。
ここまでの説明で、残業代請求の事件がいかに手間がかかるものか、実感してもらえたと思います。
もちろん、残業代を支払わない会社を放置しておくことはよくないことですから、弁護士として、相談が来れば積極的に対応したいとは思います。
でも、残業代請求がとても簡単のことだと思って、ほとんど何の資料もなく相談に来て、毎月何十時間は残業してましたなんていうだけで残業代請求したいというのは、勘弁して欲しいと思います。
残業代請求を本気で考えているなら、労働者側でも自分の労働時間を客観的な資料で立証できるように工夫や努力をして欲しいし、労働契約書と就業規則と給与明細書の3年分は持ってきて欲しい。就業規則は、労働者10人以上の会社では作成が義務づけられているし法律上労働者に「周知」する義務があるのですから、まっとうな会社ならコピーをくれるはずです。
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残業代請求のための資料収集
残業代請求と消滅時効
残業代請求と付加金
残業代請求訴訟の実情
【労働事件の話をお読みいただく上での注意】
私の労働事件の経験は、大半が東京地裁労働部でのものですので、労働事件の話は特に断っている部分以外も東京地裁労働部での取扱を説明しているものです。他の裁判所では扱いが異なることもありますので、各地の裁判所のことは地元の裁判所や弁護士に問い合わせるなどしてください。また、裁判所の判断や具体的な審理の進め方は、事件によって変わってきますので、東京地裁労働部の場合でも、いつも同じとは限りません。
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