このサイトでは、民事裁判のしくみや手続、労働事件、借金の整理 過払い金請求などについて説明しています。
【弁護士は何をするのか】
民事裁判で、弁護士は、依頼者から話を聞き依頼者が持っている証拠や相手方の主張等の予測から裁判で通りやすい主張を組み立て、依頼者に有利な証拠書類を提出し、証人から有利な事実を引き出し、裁判所に出された証拠から依頼者に有利な事実を認定するような証拠の評価を裁判所に示してアピールし、事件に適切な法解釈を示して裁判所を説得するなどして、依頼者に有利な判決に導くように活動します。
さらにいえば、相手方の主張や提出した証拠、裁判官の言動を見て裁判の流れを読んで、主張を修正したり新たな証拠を探したり、裁判の落としどころを判断して和解を進めるということもします。
《主張の組み立て》
民事裁判での弁護士の仕事の最初の段階での重要なことは、自分の依頼者の話と手持ち証拠から、立証できそうな(裁判所が認めてくれそうな)事実の範囲を考え、それに見合った適切な主張を組み立てることです。
「何が判断されるのか」で説明しているように、裁判所の判断は、当事者の主張に拘束されます。きちんと主張を組み立てれば勝てるはずの事案でも、その主張をしていなければ負けてしまうことにもなりかねません。
また、裁判所が認めそうもない事実を前提とする主張を組み立てても、裁判で勝てる見込みはありません。依頼者が、裁判所が認めそうもなくてもこれだけは主張したいというときに、依頼者を説得して無意味な主張は出さないでおくか依頼者が言うとおりに出すかは、弁護士の考え方や依頼者との関係によります。裁判所から見て荒唐無稽な主張をすると、それ以外のある程度まともな主張も一緒くたに無視されることもままありますので、あまり無茶な主張は(それもそれを大量に出すのは)裁判に勝つという観点からはリスキーだと私は思っていますが。
《立証と弁護士の役割》
証拠書類(ここでは「書類」と言っていますが、電子メールとか録音とかも同じです)については、普通の民事裁判では、当事者が持っているものから探すのが通常です。弁護士に証拠探しを期待する依頼者もいますが、弁護士に特別な証拠収集の権限があるわけではありません。
証拠書類との関係では、むしろ弁護士の役割は、依頼者が持っている証拠書類のうちどの書類が、またどの部分が有利に使えるかを判断して裁判所に出すか出さないかを判断するとか、依頼者の話から、それならばこういう書類がどこかに埋もれていないか、普通はこういう書類があるはずということを指摘して依頼者にさらに探してもらうということにあります。通常の依頼者は、何が自分に有利なのか、不利に働きかねないのかを十分に判断できませんし、しまい込んで忘れている書類というのがあることが多いですから。
証人尋問で依頼者に有利な事実を引き出すのは、裁判での弁護士の重要な仕事ですが、これも、ほかにどんな証拠書類があるのかでできることはだいぶ変わってきます。
《証拠の評価》
裁判で出された証拠書類や証言を見て、そこから依頼者に有利な事実の認定につなげる証拠の評価も、弁護士の重要な仕事だと思います。私は、裁判の勝敗を考えるとき、ここのところはけっこう重要だと思っています。
事実認定は裁判官が行うのですが、証拠の中でどの部分に注目するか、その事実をどう解釈するかは、人それぞれの経験や思考パターンによってさまざまです。もちろん、一見して明白なことがらもありますが、あまり目につかない事実を組み合わせていくと、そういうことなら普通はこうなるだろうとか、そういうことは普通あり得ないという考察ができることが少なからずあります。漠然と見ていると気がつかないけど冷静によく考えるとこうなるじゃないかということは、裁判の世界に限ったことではありませんが、意外にあります。裁判官がそういうことに黙っていても気がつくとは限りませんし、全然別の点を重視するかもしれません。裁判官に、証拠についてのより説得力のある評価を示すことで、適切と考えられる事実認定に導き、依頼者に有利な判決を勝ち取る可能性が高まるというわけです。
立証って、裁判官への説得なんですね。
業界では「経験則」というけど、こういうときは普通はこうなるだろってことの積み重ねで説得するんです。
《法解釈の提示》
事実関係を見れば依頼者に正義があり、また依頼者が同情すべき状態にあるのに、通常の契約や法律の規定を適用すれば依頼者の主張が採用されないと見られるときは、弁護士は、その事件に適用するのに適切な法解釈を提示して裁判官の説得に当たります。
「何が判断されるのか」で裁判所が適切な法解釈を示すといいましたが、現実には、裁判所が独自に新たな法解釈を示すということはあまりなく、弁護士がこの事件で採るべき法解釈を主張し、裁判所がそれに乗るか、弁護士の主張をさらに修正して示すかということが多いと思います(弁護士から示される法解釈ではなく、あくまでも自分が作る解釈をしたいという裁判官も、稀にいますが)。
ですから、通常の法解釈が不当と思われる事案では、適切な法解釈を、それもできるだけ裁判所が受け入れやすいような主張形式で、提示することも弁護士の重要な仕事になります。
ただ、こういう状況に追い込まれたとき、うまく行く確率は低いのですが。
《流れを読む》
裁判は、常に流動的なものです。事前の読みでは勝訴間違いなしと思えた事件でも、相手方の主張や提出証拠、依頼者の対応、裁判官の言動から雲行きが怪しいと判断せざるを得ないこともあります。
そういうとき、弁護士は、通常は理念や意地を貫くよりは、実利的な対応をすることが多いです。
純論理的には勝てるはずの裁判で、独特の考えを持つ裁判官に当たって敗訴が予想されるときに、主張を貫いて敗訴して控訴審に賭けるか、修正して妥協し被害を最小限にくいとどめようとするかも、弁護士の考え方と依頼者の考え方でさまざまだと思います。
そのあたりも、依頼者には判断しにくいと思いますので、弁護士が流れを評価して依頼者に伝え協議して方針を立てるということが重要になる場面があります。
弁護士って、正義と理屈で生きてるんだと思ってたけど。
そういう事件もあるけど、普通の事件は負けたら終わりですから意地は張りません。
《落としどころの判断》
民事裁判では、多くの場合、裁判所は一度は和解を勧めます。
そのときに、それまでに出された主張と証拠、裁判官の言動などから、判決になった場合の予測をし、和解をした方が得なのか、どの程度の和解が可能なのかを判断するのも、弁護士の重要な仕事です。
もちろん、和解するかどうかは、最終的に依頼者の判断ですから、弁護士がどのように説明しても依頼者が和解はしたくないといえば和解はできません。
しかし、民事裁判の三分の一程度、労働事件では半分程度が和解で決着しているといわれる状況ですので、この落としどころの判断は、現実には重要なものです。
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