このサイトでは、民事裁判のしくみや手続、労働事件、借金の整理 過払い金請求などについて説明しています。
【何が証拠になるのか】
民事裁判の場合、こういうものは証拠にできないという証拠制限のルールは、基本的には、ありませんので、どういうものでも証拠になり得ます。
証拠の種類で問題となるのは、証拠の種類(録音など)によって出し方が変わってくることくらいです。
むしろその証拠で何をどの程度証明できるのか、言い換えれば、証拠と証明したい事実との関係(関連性)と、証拠の信用性をよく検討する必要があります。
《権利関係を直接証明する書類》
民事裁判で問題となる権利・義務関係について当事者間で契約書(名称は覚書でも念書でも同じようなものです)が作成されていることがよくあります。労働関係では「労働契約書」とか「雇用契約書」とか、土地・建物の賃貸借では「賃貸借契約書」、お金の貸し借りなら「消費貸借契約書」とか「借用証書」、売買代金なら「売買契約書」などです。このような場合、契約書等は、問題となる権利・義務関係を直接証明するものであることが多いので、最も基本的な証拠書類となります。この契約書について、それと違う約束があったとか内容がよくわからないままに署名したという場合もあるでしょうけれど、基本的にはその契約書がスタートになります。こういう当事者が当然に持っているはずの基本的な証拠は、提出しないと、裁判所が、なぜ提出しないのだろう、何か出したくない事情があるのだろうかと考えてしまいかねませんので、早い段階で提出しておくべきです。
契約書以外にも当事者間で作成して受け渡す書類は、けっこうあるものです。お金を支払ったときの領収書や、注文をしたときの注文書、物を送ったときの納品書などの取引で通常受け渡す文書は、裁判で何が重要な事実かにもよりますが、契約書と同様の位置づけになります。
当事者間で作成した文書とは別に、権利関係を明らかにするために役所が書類を作成していることもあります。例えば土地・建物の所有権や担保については、不動産登記簿謄本で証明するのが通常です。こういう典型的な書類も、早い段階で取り寄せて提出すべきです。
《その他の証拠書類と関連性》
裁判で問題となって証明を要する事実は、権利義務関係そのものだけではなく、それに関係あるさまざまな事実が問題となり得ます。どんな事実が重要なポイントとなるかは、事件ごとにさまざまです。
証明を要する事実をどのように証明するかも、その事実と手持ち証拠によってさまざまで、一見関係ないと思えるいくつかの事実を積み上げて最終的に証明したい事実を証明するということもままあります。
証明したい事実と関連性がある(そして信用性のある)証拠をどれだけ出せるかが民事裁判の結果に大きく影響することになります。
他方、数打ちゃ当たるという発想であまり関連性のない証拠書類を大量に提出することは、昨今は裁判所から嫌われる傾向にあります。
その証拠書類に書かれていることが証明したい事実とどういう関係にあるのか、いくつかの証拠を組み合わせた場合にどういう評価ができるのかということは、なかなか判断が難しいところで、そういうところに弁護士や裁判官のセンスと経験が生きてくると、私は思っています。
《証拠の信用性》
証拠による証明を考えるとき、その証拠がどの程度の信用性を持つのかが重要です。
一般的には、利害関係のない第三者が通常の業務等の過程で作成した書類については、高度の信用性があると評価されます。利害関係のない人が作成した書類については、特に疑うべき事情がない限り、裁判官は基本的に信用する傾向にあるといってよいでしょう。
当事者が作成した書類については、紛争が生じる前に作成された書類は、裁判官は基本的に信用する傾向にあります。当事者の権利義務関係について作成された書類は、その条項についてどう解釈するかという問題はあるとしても、基本的にその書類にそった合意があったものと評価されることが多いです。
当事者や利害関係のある人が紛争発生後に作成した書類やさらには裁判に提出するために作成した書類(後者は「陳述書」という形で作成されることが多い)はどうでしょうか。裁判官は、他の信用性の高い証拠で認められる事実との合致している程度、内容自体の合理性・一貫性、事実の具体性・詳しさ等を見て、証言や陳述書の信用性を評価しているようです。
《証拠の偽造の主張》
相手方が提出した証拠について、これは偽造に違いないと、依頼者からいわれることが時々あります。しかし、証拠書類が偽造だという主張が認められることはほとんどありません。民事訴訟法が、作成者か代理人が署名しているか押印している文書は「真正に成立した」と推定すると定めていますから、裁判官は偽造だという明確な心証を持たない限り、偽造ではないと判断することになります。
《録音・録画の証拠提出》
近年では、ICレコーダーなどが普及したため、録音や録画があるといわれることが増えています。
録音・録画を裁判の証拠に使えるかについては、一応その録音・録画が相手の承諾を得ているかが問題となり得ますが、隠し録り・隠し撮りだからということで証拠採用しないという裁判官は少数だと思います。
録音・録画を証拠として提出するときは、必ず録音なら全文の反訳書、録画なら音声全部の反訳書と必要な部分のキャプチャー画像を提出します。その上で録音・録画自体もファイルをCD、DVD、USBメモリの形(具体的には提出先の裁判所と協議します)で提出することになります(裁判所はファイルは不要ということもありますが)。裁判官が録音・録画自体を直接再生して見聞することは、基本的に期待できません。そんな時間の余裕がないですから。そのため反訳書を必ず提出するのです。
率直なところ、録音・録画は弁護士も直接再生して見聞する時間の余裕がありません。録音・録画が決定的な証拠だという場合は、弁護士に相談する時点で、基本的には全文の反訳書を作成してきて欲しいものです。当事者本人がそんなことやってられないと思う場合は、たぶんその録音・録画にそれほどの価値がないか事件自体にそれほどの重要性がないと、相談を受ける側の弁護士は考えてしまいます。
録音・録画は、弁護士にとって悩ましいことが多いものです。直接再生するのに時間がかかることもそうですが、相談者・依頼者の評価と弁護士の評価が食い違うこともけっこうあります。相談者が指摘するその部分だけを聞いたらそう評価する余地があっても全体を通して聞いたらニュアンスがかなり変わることが少なくありません。相手方が自分の主張する事実を認めていると相談者が言うので聞いてみると、相談者が長時間くどくどと迫り続けるので話を早く切り上げたい相手方が生返事を続けているとか投げやりな相づちをうっているということがよくあります。
上司のパワハラがひどくて。録音を聞いてくれよ。すごい怒鳴り声だろ。
確かに上司も怒鳴ってるけど、あなたの声の方が大きいように聞こえます。
録音・録画が証拠として意味があるときは、全文の反訳書を提出しますが、この反訳書というもの、誰が反訳するかでかなり精度が違ってきます。依頼者にやってもらうとたいていの場合、実際に聞こえるのとかなり違います(性格が緻密でない/おおざっぱということによることが多いですが)。反訳業者に頼むと、ちょっと声が小さいと「聴取不能」とされ一番大事な部分が「聴取不能」なんてことが少なくありませんし、重要なキーワードが聞き間違いになることも少なくありません(聞き慣れない単語は別の単語に「解釈」してしまいがちです)。それで、私の場合、依頼者に起こしてもらった反訳書を、まずは事務員に聞いてもらって手を入れてもらい、最終的には自分で聞いて修正して提出することになります。手間がかかって仕方がないという思いです。
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