◆短くわかる民事裁判◆
管轄のない裁判所に訴え提起したとき
原告が、管轄(かんかつ)のない裁判所に訴えを提起(訴状を提出)した場合、訴え提起を受けた裁判所は、職権で(つまり被告の申立がなくても裁判所の判断でということ)訴訟を管轄裁判所に移送(いそう)することができます(民事訴訟法第16条第1項)。移送されるとその訴えは最初から移送先の(管轄のある)裁判所に提訴されたものとみなされます(民事訴訟法第22条第3項)。
管轄を間違った訴えは、不適法な訴えではありますが、この場合は訴状や訴えを却下するのではなく、管轄のある裁判所に移送することになっているのです。言い換えれば、裁判所は、管轄がないことを理由に訴状却下や訴えの却下をすることはできません。
訴状却下や訴えの却下でも、原告は再度訴えを提起できますが、却下と再提訴の場合、最初の提訴時点での消滅時効の完成猶予(以前の用語では時効の中断)の効果がないこと、訴え提起手数料が(口頭弁論を経ていない却下の場合は半額返ってくるとはいえ)二重払いになることの不利益があります。移送ならばその問題はなく、最初の訴え提起時点で時効の更新の効果が生じ、訴え提起手数料もそのままで済みます。
もっとも、移送されると事件記録の送付等で1か月程度時間のロスが生じ、却下で再提訴の方が早期進行が図れるという可能性もありますが。
現実には、事物管轄や土地管轄については、被告が管轄違いの主張をしなければ応訴管轄が生じてそのままその裁判所で審理して判決ができますので、(少なくとも原告が移送しないでくれと言えば)被告に訴状を送達して被告の応答を待ちましょうとなるのがふつうだと思います。
また、簡易裁判所の事物管轄に属する事件を(その簡易裁判所所在地を管轄する)地方裁判所に訴え提起した場合は、地方裁判所の判断で自ら審理・判決することができます(民事訴訟法第16条第2項。裁判業界では「自庁処理(じちょうしょり)」と呼んでいます)ので、地方裁判所がその判断をしてくれる可能性もあります。
職分管轄を誤ったような場合、例えば離婚訴訟を家裁ではなく地裁に提起したとか、遺言(いごん)無効確認訴訟や遺留分侵害額(いりゅうぶんしんがいがく)請求訴訟を地裁ではなく家裁に提訴したようなときは、被告が管轄違いを主張しなくても管轄が生じませんので、裁判所の判断で直ちに移送の取扱がされると思います。(裁判所が、原告に、取り下げて再提訴しますかと聞くかもしれませんが)
管轄についてはモバイル新館の 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
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