◆短くわかる民事裁判◆
請求の認諾
被告が原告の請求を丸呑みして原告の請求通りに従う義務があることを認める(主張する事実を認めるということではなく、例えば500万円の支払い請求の訴訟であれば、原告に対して500万円を支払う義務があることを認める)ことを請求の認諾(せいきゅうのにんだく)と呼んでいます。
請求の認諾は、口頭弁論等の期日に行うこととされています(民事訴訟法第266条第1項)。法廷で行う口頭弁論期日の他に、法廷外で行う非公開の弁論準備手続や和解期日でもできます(民事訴訟法第261条第3項が口頭弁論、弁論準備手続又は和解の期日を「口頭弁論等の期日」と定義しているため)。法廷外で非公開で行う進行協議期日においても請求の認諾を行うことができます(民事訴訟規則第95条)。現在は、この口頭弁論期日、弁論準備期日、和解期日、進行協議期日のいずれも当事者双方ともに電話会議やWeb会議で行うことができます。
被告が請求を認諾する旨の書面を提出して期日に欠席した場合、裁判所は被告がその旨を期日に陳述したものとみなすことができます(民事訴訟法第266条第2項)。
被告が請求を認諾すると、裁判所は認諾調書を作成し、その認諾調書の記載が確定判決と同一の効力があると定められています(民事訴訟法第267条)。したがって、被告の認諾は原告の全部勝訴と法的には同じです。
最高裁は、原告の請求が裁判で求められない不適法な訴えの場合は、被告が認諾しても認諾の効力を生じないとしています(過去の事実の報告をする文書=現在の法律関係の成立を証するものではない文書の偽造確認につき1953年10月15日第一小法廷判決、相続放棄の無効確認につき最高裁1955年9月30日第二小法廷判決)。
請求の認諾をすると、被告は法的には全部敗訴と同じです。訴えの取下とは違って確定判決と同じ効力ですから、別の機会に争う余地もまったくありません。全面敗訴と同じなら、被告は何のために請求の認諾をするのでしょう。
私が経験した数少ないケースで被告の利害を説明します。
1件は、プロミス(現:SMBCコンシューマーファイナンス)に対する過払い金請求訴訟でした。当時、プロミスとの間で法解釈の問題で厳しい論点があり、地裁・高裁レベルでプロミスの主張を認める判決が多数派でした。私が行った事件でも高裁で敗訴し、最高裁に上告しました。そこに、最高裁から口頭弁論を開くという連絡がありました。最高裁が口頭弁論を開くということは原判決を見直すということです。プロミスは同様の論点の裁判を多数抱えていますから、最高裁でプロミスに不利な解釈が示されればこれまで優位に進めてきた他の裁判がみんな逆転して敗訴することになり致命的な損失を受けます。それでプロミスの代理人から請求額以上払うから和解か訴え取下をしてくれと申入れがありましたが、拒否しました。すると、プロミスは2審まで勝っていたにもかかわらず、請求を認諾し、最高裁判決が出ることを回避しました。
もう1件は解雇事件で、従業員にさまざまな陳述書を書かせ言いがかりとしかいいようがない主張をしてきた使用者に対して、原告が手許に残していた記録に基づいて詳細に反論し、訴訟の初期にもう裁判官の心証も解雇無効に傾いていた事案で、判決まで行けば支払わざるを得ないバックペイ(解雇後判決確定までの賃金)が多額になることを嫌った使用者が請求を認諾してきました。私自身驚きましたし解雇事件では初めてのことでしたが、労働集中部の裁判官も解雇事件で認諾って初めてですといっていました。
現実には、正々堂々と闘えず敗訴必至となった被告が、見苦しい思惑でやってくるというのが現実かなと思っています。
代理人(弁護士)が行う場合は、訴えの取下と同様、明示された委任が必要です(民事訴訟法第55条第2項第2号)。委任事項が「本件に関し私がする一切の行為を代理する権限」というような委任事項では請求の認諾を行うことができません。そのため、通常使用されている訴訟委任状では、必ず、「請求の認諾」が委任事項の1つとして明記されているのです。
もっとも、訴えの取下は、訴外和解して被告から支払を受け、訴訟提起の目的を果たして取下という途があるので受任時に想定しますが、被告側で請求の認諾を想定して受けることはまずない(それなら弁護士が付いても着手金が無駄になる事件だから受任しない)と思いますけどね。
訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
モバイル新館の 「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
**_****_**