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【訴状が届かないとき】
 訴状は、郵便で「特別送達(とくべつそうたつ)」という配達人が受領者と受領日時を記録して裁判所に報告する方法で送られます。訴状が被告に届かないときは、通常の手続で裁判を進めることができません。
 訴状が被告に届かないとき、被告が訴状記載の住所地に住んでいるけれど受領しない場合は「郵便に付する送達」という方法で、受け取らなくても訴状が届いたという扱いをして裁判を進めます。被告が訴状記載の住所地に住んでいなくて住所不明の場合は、「公示送達」という手続で、被告に訴状等が送られないまま裁判をすることになります。

《通常の送達方法》
 訴状(判決も同じ)は、郵便配達人が、送り先を訪ねて、原則として名宛て人に直接手渡し、名宛て人は不在だが家族等の同居人(個人宅)や事務職員(会社)がいるときはその人に渡し、定型の「送達報告書」の受領者欄に押印をもらうという方法で送られます。
 誰もいない場合は、不在連絡票を置いて一定期間(通常1週間)内に再配達要請をして受け取るか郵便局まで取りに来れば同様に印鑑をもらって渡しますが、期間内に受け取らないときは裁判所に戻されることになります。

《訴状が届かないと裁判所は》
 訴状記載の被告の住所(会社等の法人の場合本社・事務所)に送っても不在で受け取られずに、訴状が裁判所に戻ってくると、通常は、書記官から原告側に、訴状が戻ってきたがどうするかという問い合わせが来ます。原告側の選択は、夜間休日の再送達か、職場への送達(個人で勤務先がわかる場合)か、郵便に付する送達か、公示送達になります。
 書記官が郵便局からある程度の情報を得ていたりして、例えば夜間休日で再送達してみましょうかと提案してくることもありますが、原告側でどうするか考えてくれと完全にお任せのときもあります。

《郵便に付する送達》
 被告が住所地に住んでいるけれども訴状を受け取らないと判断した場合、裁判所が訴状等を書留郵便で改めて送り、送ったことで(受け取らなくても)送達されたと扱う方法があります。これを裁判業界では「郵便に付する送達(ゆうびんにふするそうたつ)」とか「付郵便送達(ふゆうびんそうたつ)」と呼んでいます。付郵便送達をする場合、裁判所書記官は、訴状等を書留郵便で送る(これは被告が受け取らないとまた裁判所に戻る)とともに、付郵便にしたということを書いた通知を普通郵便で送ります(こちらは郵便受けに入ったままになります)。
 郵便に付する送達にするには、原告側で、被告が現実に訴状記載の住所地に住んでいることを調査してその報告書を提出して、郵便に付する送達を行うよう上申する必要があります。
 被告が訴状記載の住所地に現実に住んでいるかどうかの判断は書記官が行います。どの程度の調査で認めてくれるかは、ケースバイケースで、被告の住居の様子によることはもちろんですが、書記官によるばらつきもある感じです。
 郵便に付する送達が行われた場合、裁判所が書留で訴状を発送した時点で送達できたという扱いになり、その後は、通常の民事裁判と同じ進行(普通は被告が出席せず、欠席判決)になります。

 訴状に書かれた被告住所地に、実際には被告が住んでいない(転居しているなど。この場合、本来は、あとで説明する「公示送達」をすべきです)にもかかわらず、原告側が被告は訴状記載の被告住所地に住んでいるという報告書・上申書を提出して、裁判所が(書記官が)それに基づいて(それを信じて)、訴状等を「郵便に付する送達」をした場合、どうなるでしょうか。
 被告は訴状等を受け取っていませんので、当然、第1回口頭弁論期日に答弁書を出さずに欠席し、欠席判決がなされ、その判決も通常は「郵便に付する送達」となります。判決が郵便に付する送達をされてから2週間以上たって、被告がそのことに気づいた(転居前の住所を訪れて裁判所からの「郵便に付する送達」の通知を見つけたとか、原告側がその後に被告の現実の住所を探索して連絡してきたとか、判決に基づく強制執行がされて預金が差押えされたとか、裁判所の情報提供命令で銀行等が情報を提供したという通知が来たとか)という場合、どうすればいいでしょうか。
 このようなケースについて、私の知人の弁護士が画期的な判決を取りました(仙台高裁秋田支部2017年2月1日判決:判例時報2336号80ページに掲載されました)。報告書を信じた書記官に落ち度がなくても、送達はあくまでも送達発送時点での送達を受ける者の住居所に対して行わなければならず、住居所は送達を受ける者が現にそこに居住または現在しているなどの実体を伴うものであることを要するから、現実の住居所以外に宛ててなされた訴状等の郵便に付する送達は効力がなく、原審の口頭弁論手続、原判決のすべてに訴訟手続の法令違反(控訴理由)があるから、原判決は破棄されるべき(判決が有効に送達されていないから、控訴期間も進行しておらず、あとからなされた控訴も有効)というのです。この判決によれば、このようなケースでは、あとから気が付いた時点で「控訴」をすれば、原判決(1審判決)は確定もしていないし訴状が有効にされていないことからその内容にかかわらず訴訟手続の法令違反があるので破棄されることになり、訴状等が送られたことを知らないうちに「郵便に付する送達」をされて敗訴した被告は救済されることになります。

《公示送達》
 被告が訴状記載の住所に住んでいないという判断の場合は、現実的には住民票を取り、住民票が移転していれば訴状の被告の住所を移転先に訂正してそちらに送達することになります。住民票所在地に住んでいない(住民票がそのままか、移転していても移転先にやはり訴状が届かない)ときは、それ以外の方法で被告の本当の住所がわかれば、やはり訴状の被告住所を訂正しますが、結局、被告の住所がわからないということになると、公示送達の手続をとるかどうかということになります。
 公示送達を求めるどうかは原告側の判断で、公示送達で判決を取ることに意味がないという判断で訴えを取り下げるということもあり得ます。相手の所在もわからないのでは判決を取ってもその通りに実行されることはまず期待できません(そもそも相手は判決があったことも知らないことになります)し、相手の所在がわからないケースのほとんどは相手の財産も把握できず強制執行もできないということですから。

夜逃げしたやつ相手に判決とって意味があるかね。
財産が把握できるか、あとは判決で10年間執行できるのでそれまでに見つけるか。

 従来は、銀行預金の所在を把握することが困難だったため、勤務先がわからず不動産も見当たらない場合は原告側が諦めることも多かったのですが、近年は判決に基づく情報提供命令で銀行が口座情報を回答することから、公示送達で判決を取りに行くことが増えているように思えます。

 公示送達を求めるということになると、やはり原告側で調査をして、被告が住民票の住所地に住んでいないことの調査報告書を提出して、公示送達をするよう上申します。ここでも、被告が住民票の住所地に住んでおらず住所不明であるかは、書記官が判断します。
 公示送達は、送るべき書類(訴状等)を書記官が保管して、出てくればいつでも渡すということを書いた紙を裁判所の掲示板に吊し、2週間経ったところで書類が送達されたという扱いになります。2回目以降は即日送達されたということになります(たいていの場合、訴状等が1回目、2回目は判決)。
 訴状等を公示送達にした場合、被告が訴状が送られていることも知らないことが明らかですから、裁判の進行で、被告が来ないということで欠席判決をすることはできず、原告側で主張を立証する必要があります。ただ、そうは言っても、被告側の反論は全くないわけですので、公示送達の事件ではほとんどの場合、訴状につけられた証拠書類とせいぜい原告本人の尋問くらいで1回で終結して判決にいたり、原告の主張通りの判決になるのが実情です。

 公示送達による判決を受けた被告が、公示送達後2週間を過ぎてから判決に気付いた場合に、被告が救済される余地はあるでしょうか。
 付郵便の場合は、送達先に居住していることが前提なので、そうでない場合は書記官に落ち度がなくても客観的に送達の要件を満たしていないから無効と言えたのですが、公示送達の場合の要件は、被告の現実の住所がどこかには関係なく、住所・居所等が「知れない場合」ということなので、よりハードルが高い感じです。
 原告側の報告書で「地方におり状況の際立ち寄る程度で常時居住しているわけではない」「郵便受け内の郵便物については…帰宅の際、…確認している様子がうかがえる」などとされ、訴状等の特別送達は尋ねあたらずではなく不在・保管期間満了という事情から居住していた可能性が否定できないので書記官がさらに(原告側に促して)確認すべきであったのにそれがなされず調査が尽くされていないとされた事例(札幌高裁2013年11月28日判決:判例タイムズ1420号107ページ)、原告側の報告書で郵便受けに被告の名が記載され、集合住宅の管理人が被告の居住についての質問に回答拒否したがその部屋は空き部屋ではないと回答し、2度目の調査時には郵便受けに郵便物が入っていたとされていることから居住していた可能性が否定できなかったので、書記官が(原告側に促して)さらに確認すべきであったのにそれをしなかったので調査が尽くされていないとされた事例(大阪地裁2009年2月27日判決:判例タイムズ1302号286ページ)、原告が被告の電話番号を知っており、訴訟提起後もFAXでやりとりをし、訴え提起の頃に出した暑中見舞いも戻ってきていない(つまり転送により配達されたとみられる)という状況の下、それらの事情が報告書には書かれていなかったものの訴状とともに提出された書証中に被告の電話番号とFAX番号が記載されていたにもかかわらず原告が報告書でそれに言及していないことについて書記官が調査すべきであったがそれがなされていないという事例(名古屋高裁2015年7月30日判決:判例時報2276号38ページ)で、公示送達が無効とされ、控訴が有効とされています。

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