◆短くわかる民事裁判◆
訴状却下命令
訴状の不備があり、裁判長から訴状の補正命令が出されてもなお原告が訴状の補正をしない場合、裁判長が命令で訴状を却下することになります(民事訴訟法第137条第2項)。
その「訴状却下命令」を受けた原告は、命令の告知受けた日から1週間以内に即時抗告をすることができます。
訴状却下命令については、具体的に書かれたものがほとんどなく、その実態・実情はよくわかりません。しかし、司法統計年報を見ると、地方裁判所で命令により終了した通常民事訴訟というのが、毎年1000件前後もあります。
年 終了事件総数 うち命令による終了 割合 2023 137,596 804 0.58% 2022 131,801 860 0.65% 2021 139,020 954 0.69% 2020 122,759 752 0.61% 2019 131,557 757 0.58% 2018 138,683 957 0.69% 2017 145,985 897 0.61% 2016 148,022 1,303 0.88% 2015 140,991 1,090 0.77% 2014 141,012 826 0.59%
通常民事訴訟が命令で終了するというのは、訴状却下命令以外は考えにくい(司法統計年報上、「決定」で終了している事件数も概ね同じくらいありますが、こちらは、訴え却下決定の他に、移送決定でその事件としては終了し移送先で別の事件番号が付いて継続というものも考えられます)ので、これくらいの数の訴状却下命令が出されているものと考えられます。
裁判所Webに掲載されているケースはほとんどが訴え提起手数料の納付を命じる補正命令のケース(訴え提起手数料の額に争いがあって補正しないケース)で、他のケースとしては、私が探した限りでは被告への送達不能に関する被告住所の補正命令(それに対する即時抗告審が札幌高裁1962年5月23日決定:これは通常は「訴状が届かないとき:裁判所に戻ったとき」で説明しているような経過をたどり付郵便送達か公示送達で処理される事案でしょう)と、米軍占領期の日本の裁判所が裁判権を有しない事項についての訴状が却下されたケースがいくつか見られる程度です。
裁判所Web掲載以外では、被告の特定に関して、消費者被害に絡んで氏名や住所不明の者に対するチャレンジングな訴状や、環境訴訟でアマミノクロウサギを原告とした訴訟で却下例が見られます。
しかし、毎年1000件前後もの訴状却下があるとすれば、実際にはそういうある種意図的なものではなく、本人訴訟で請求の趣旨や原因が不特定という理由で却下されているものも相当数あるものと考えられます。
そういうものは、あまり表に出てこないので、実態はわからないのですが。
口頭弁論を経ないでなされた(口頭弁論を経てなされることは想定されませんが)訴状却下命令が確定すると、訴え提起手数料の一部について還付を受けることができます。
訴え提起手数料の還付については、「手数料還付」で説明しています。
※、訴え提起手数料不納付による訴状却下命令の場合も、訴え提起をした以上、手数料納付義務は生じていて、訴状却下命令が確定してもそれが免除されるわけではありません。
訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
モバイル新館の「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
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