◆短くわかる民事裁判◆
即時抗告審の審理
民事裁判手続中になされる各種の決定対して即時抗告(そくじこうこく)を申し立て、抗告理由書が提出(提出期間は申立てから14日以内)され、原決定をした裁判官が意見を付して抗告裁判所(原決定をした裁判所が簡裁なら地裁、原決定をした裁判所が地裁なら高裁)に送られて、抗告裁判所の民事受付(事件係)が事件記録符号(ラ)の事件番号をつけて事件を配点して担当部に送ると、そこから抗告審の審理が始まります。
「原裁判所での手続(即時抗告)」で説明したように、抗告状の審査、補正命令、抗告状却下命令は、抗告裁判所の裁判長の権限ですので、抗告状の記載の不備や抗告手数料の不納付があったときには、抗告裁判所の裁判長が(通常は、書記官を通じて任意の補正を促した上で、それでも補正がないときは)補正命令を出します(民事訴訟法第331条、第288条、第137条第1項)。補正命令で定めた期間(7日間とか14日間とされることが多いようです)を経過しても抗告人が補正しないときは、抗告裁判所の裁判長が抗告状の却下命令(紛らわしいですが抗告却下決定ではありません)を出します(民事訴訟法第331条、第288条、第137条第2項)。
この抗告状却下命令に対しては、抗告裁判所が地方裁判所の場合(原決定が簡易裁判所の場合)は即時抗告ができます(民事訴訟法第331条、第288条、第137条第3項)。これは、「抗告裁判所の決定」に対するものではない(紛らわしいですが、抗告裁判所の裁判長の命令なので)ので、再抗告ではなく、通常の(最初の)即時抗告です。抗告裁判所が高等裁判所の場合は、高等裁判所の命令に対しては即時抗告はできず、許可抗告か特別抗告によることになります。
抗告手数料(1000円ですが)について訴訟救助(手数料納付の猶予)が申し立てられた場合、民事訴訟法上、訴訟救助決定は審級ごとに行うことは定められています(民事訴訟法第82条第2項)が抗告審(控訴審も同様)の場合に原裁判所が決定するのか抗告裁判所が決定するのかは規定上明確ではありません。手数料不納付に関する補正命令が抗告裁判所の裁判長の権限とされていることから、訴訟救助についての決定も抗告裁判所の権限と解されているようです(控訴審での訴訟救助申立てについて2000年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版88〜89ページ)。
実際には、即時抗告審の審理は、多くの場合、ほぼブラックボックスです(そもそも原裁判所での手続も、抗告理由書提出後特段の連絡はなく、抗告裁判所に記録が移ったり事件番号が振られ担当部が決まったこともまったく連絡がないのがふつうです)。
抗告裁判所は、口頭弁論を開くことも、口頭弁論を開かずに抗告人その他の利害関係人を審尋する(法廷外の非公開の場で意見や事実を聞くなどする)ことも可能ですが、ふつうは書面審理で結論を出します。
口頭弁論や審尋がある場合は抗告裁判所から連絡(期日調整)があることになりますが、それがない場合、抗告人にも抗告裁判所からの連絡はありません。
さて相手方にはどうでしょうか。民事訴訟規則上、相手方に対しては、抗告裁判所が抗告状の写しを送付するとされています(民事訴訟規則第207条の2第1項本文)。しかし、即時抗告が不適法であるとき、理由がないと認めるとき、抗告状の写しを送付することが相当でないと認めるときは、抗告状の写しの送付は不要とされています(民事訴訟規則第207条の2第1項但し書き)ので、抗告裁判所が抗告を却下するか棄却するときには現実には、即時抗告状の写しも送られないということが、現実には多いようです。
相手方に即時抗告状の写しを送付するときは、申立人から提出された即時抗告理由書(提出期間内に提出されたもの)の写しも送付するものとされています(民事訴訟規則第207条の2第2項)。
※この民事訴訟規則第207条の2は2015年の規則改正で追加されたものです。それ以前は、民事訴訟法は、「抗告及び抗告裁判所の訴訟手続には、その性質に反しない限り、第一章の規定を準用する。」と規定していて(民事訴訟法第331条)、ここにいう「第一章の規定」は控訴の規定で、控訴では「控訴状は、被控訴人に送達しなければならない。」とされている(民事訴訟法第289条第1項)のですから、即時抗告状は相手方に送達する必要があると考えられるのですが、裁判所は、即時抗告は迅速性が要求されるので民事訴訟法第289条第1項はその性質上準用されないと解し、即時抗告状の写しを相手方に交付するかどうかは裁判所の裁量という扱いをしていました。その結果、相手方が、即時抗告がなされたことさえ知らされず、したがって即時抗告状、抗告理由書の内容も知らず、それに対する反論の機会も与えられないままに即時抗告が認容され原決定が取り消された事件で、最高裁が「明らかに民事訴訟における手続的正義の要求に反する」とした(最高裁2011年4月13日第二小法廷決定:最高裁がいつもそう判断するわけでもないのですが。そのあたりの事情も含め「それでも特別抗告をする意味:反論の機会を与えない即時抗告認容」で説明しています)ことから、規則改正につながったようです。
相手方に即時抗告状の写しが送付されると、実務上は、即時抗告が認容される可能性があるということを意味しますので、相手方が答弁書、意見書等を提出することになり、主張のやりとりが生じることになります。
抗告裁判所が即時抗告について検討し、結論に至れば、決定が出されることになりますが、決定の時期は特に予告されず、突然送られてくるか、決定を出したから取りに来るなら来い(来ないなら郵送する)という連絡が来るのがふつうです。
即時抗告に対する決定は、(法令上は送達の必要はありませんが)通常は、(裁判所に取りに行かなければ)特別送達で送られてきます。
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