このサイトでは、民事裁判のしくみや手続、労働事件、借金の整理 過払い金請求などについて説明しています。
【誰でもできるって本当?】
債務整理や過払い金請求について、特に過払い金請求について、弁護士なしでもできるとか、誰がやっても同じというようなことを、インターネット上ではときおり目にします。
日本では、民事裁判は、法律上、弁護士をつけることを強制されていませんから、弁護士なしでもできることはその通りです。しかし、弁護士なしでいい結果を出せるか、誰に依頼してもきちんとやる弁護士と同じ結果を出せるかは、まったく別問題です。
2006年〜2009年頃ならさておき、現在の過払い金請求では、きちんとやる弁護士に依頼するかどうかで回収額に大きな違いが出るケースが多くなっていると、私は思います。特に、現在、アコムやオリコ、ニコス、クレディセゾンあたりに弁護士なしで本人訴訟で過払い金請求の裁判を起こすのはかなり無謀なことのように、私には見えます(素人さんだと弁護士を付けないアイフルやレイク、シンキあたりでも苦戦するかもしれません)。
弁護士が満額回収しても弁護士費用を22%取られるなら自分で80%の方が得だろ。
きちんとやる弁護士が取る満額と消費者金融が交渉でいう「満額」がもし同じ金額ならね。
《過払い金請求の現状》
2006年頃は、過払い金請求を行う弁護士にとっては天国のような状態でした(そうなる経緯は次の項目の「債務整理・過払い金請求の歴史」で説明します)。現在過払い金請求訴訟で厳しい論点となっていることすべてについて、何の疑いもなく、借り主側の主張通りの計算で、それも大部分の消費者金融が裁判を起こさなくても交渉でその金額を支払ってきていました。消費者金融側は、その頃は裁判をしても勝ち目がないと諦めていましたし、十分に儲けていたので、少数の過払い金請求の減額にコストをかけるよりも新たな貸付を増やしてそちらで儲けた方がずっといいという判断だったと思います。そういう意味では、この頃は、確かに素人が本人でやっても、十分に過払い金を回収できたと思います(もっとも、その頃、素人や慣れない弁護士が過払い利息をきちんと請求できていたかはわかりませんし、その頃はきちんとやる弁護士は過払い利息を年6%で取ったりもしていましたが)。
しかし、金利を強制的に引き下げる貸金業法の改正の実施(2010年6月)を控えて消費者金融各社が2007年中に新規貸付金利を引き下げて競争が厳しくなったこと、過払い金請求が一種のブームとなり消費者金融の過払い金返還総額が大きくなったことから、消費者金融の経営が悪化しました。その一方で、現在消費者金融側が過払い金の計算で大幅に減額したり、過払い利息を支払わなくてよいという主張の根拠としている判決が最高裁によってこの頃にいくつか出されました。そのために、2009年あたりから、多くの消費者金融は、交渉では相当減額した額しか支払わなくなり、裁判でもあれこれと法的な主張をして粘り抵抗するようになっています。また、相当数の消費者金融が廃業し、倒産しています。
生き残った消費者金融も、うちも武富士のようにいつ潰れるかわからないなどといって理屈と関係なく過払い金の大幅減額を求めたりしていましたし、およそ潰れる心配のない消費者金融や信販会社(クレジットカード会社)の場合は裁判で弁護士をつけて普通の感覚では読むのもいやになるくらいさまざまな法的な主張をして争い続けています。
《債務整理・過払い金請求の歴史》
東京では、1998年10月に全国で初めて、弁護士会が多重債務相談専門の法律相談センターを四ッ谷に作りました。その頃、多数の貸金業者からの借金で身動きが取れなくなった「多重債務者」の債務整理は、多くの弁護士にとっては労多くして実り少ない事件でした。1人の依頼を受けるだけで多数の貸金業者から督促の電話が頻繁に入ってくるし依頼者にはお金がないので報酬もあまり期待できないからです。そのため、多重債務者の債務整理は、貧しい人のために奉仕的な姿勢で頑張るごく一握りの良心的な弁護士と、貸金業者側とつながり事務員任せで弁護士は看板だけに近く利息制限法引き直しもしないで貸金業者に有利な和解をする「提携弁護士」と業界で呼ばれる問題のある人々がやっていました。
弁護士会では、多重債務者を提携弁護士から救い、一握りの良心的な弁護士に過重な負担をかけないようにということで、多くの弁護士の手で正しい債務整理を行おうと法律相談センターを設立したのです。
私は、当時(今もですが)弁護士会の法律相談センターの運営委員だったことから、弁護士会の職員が多重債務専門の法律相談センターの相談員のなり手がいないと悲鳴を上げていたので、やってもいいよと答え、債務整理・過払い金請求の仕事をするようになりました。
1998年頃は、消費者金融は、取引履歴も素直に回答せず、利息制限法に引き直して(再計算して)過払いとなる場合でも容易には過払い金の返還に応じませんでした。それで弁護士会の法律相談センターのクレサラ(「クレジット・サラ金」の略称)部会のメンバーを中心に、取引履歴の全部開示請求を行うように相談センターの担当弁護士に指導するとともに、素直に開示しない消費者金融について財務局に行政指導を求めるなどの活動を行いました。また、当時、過払い金請求には、貸金業法の「みなし任意弁済」という消費者金融に利息制限法の適用を免れさせる規定があって消費者金融側が裁判で抵抗し、裁判官も消費者金融の主張に引きずられがちにも見えましたので、クレサラ部会を中心に主要な消費者金融に対して集団訴訟を提起して解決を図りました。それらの集団訴訟では、クレサラ部会の中心メンバーが訴訟進行を担当しました。私は、クレサラ部会のメンバーではありませんでしたが、それなりに実績を上げていたこともあって、2002年から2005年にかけてアコムに対する第2次の集団訴訟をやらされました。
そういった弁護士会のクレサラ部会のメンバーらによる活動の結果、消費者金融の取引履歴開示が進み、また消費者金融が過払い金を素直に支払うようになっていったのです。
2005年7月19日に貸金業者には取引履歴開示義務があるという最高裁判決が出され、2006年1月13日に「みなし任意弁済」の規定が適用される要件を厳しく限定してほとんど適用の余地をなくす最高裁判決が出されたことで、消費者金融側はとどめを刺され、ほとんど抵抗できなくなりました。
こうして、以前は大変な労力を要した過払い金回収が、容易になると、多くの弁護士が過払い金請求に参入するようになりました。債務整理に特化した法律事務所が多数作られて電車広告や果てはテレビコマーシャルまでして依頼者集めを行いました。楽だからということで過払い金請求の法的な知識が十分にないまま参入している弁護士・司法書士も残念ながらいるようです。
弁護士会で以前から苦労してきたクレサラ部会の中心メンバーの間では、大々的に広告を打っている法律事務所に対して、我々が苦労している間は全然貢献しなかったのに…という声がありますが、私には、それよりも事務員中心の大量処理で数を効率的にこなす事務所が、消費者金融が抵抗しなかった時期はいいとして、現在のような厳しい時期に1件1件できちんとした法的主張をしてきちんと回収できているのかなということが心配です。
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