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【過払い金返還請求】
 過払い金請求の裁判では、現在、過払い金の額を大きく左右する実質的な争点は、一旦完済した後に再借入したときに一連計算できるかどうか、1回払いの取引(マンスリークリア方式)を一連計算できるか(主として銀行系や信販会社)、貸付停止があったときに取引中でも時効が進行するか、貸金業者が取引履歴を一部しか開示しないときに開示されない部分をどう扱うかの4点といってよいでしょう。過払い利息が付くか(貸金業者が「悪意の受益者」か)どうかについては、かつては非常に激しく争われましたが、近年はほとんど争点にはならなくなりました。
 現在では貸金業者はどこでも、少しでも過払い金の額を減らすためと裁判を引き延ばすために、さまざまなことを考え出しては主張して食い下がってきますが、大半は、過払い金請求に関する理屈と裁判例がわかっている弁護士にはまともに相手にする必要もないものか結果にほとんど影響がないものです。
 ここでは、実質的に意味のある4つの問題について簡単に説明しておきます。

ほかの主張は相手にしなくていいの?

手短かにきちんと反論できればね。たくさん並べて反論に困らせることが目的でしょう。

《取引の一連性問題》
 借入・返済を続ける中で、借り主が一旦完済して借入残高がゼロとなり、その後借入のない期間(空白期間)が続いた後に再度借入をした場合、利息制限法引き直し計算を一連でできるか(裁判業界の言い回しでは「過払い金をその後の借入に充当できるか」)という問題です。一連計算できないと判断された場合は、完済前と再借入後を別に計算することになります。問題となる完済が10年以上前の場合は完済前の過払い金は消滅してしまい、再借入後の利息制限法引き直し結果だけが問題となります。問題となる完済が10年以内の場合は、個別に計算した結果を合算して評価することになります。どちらにせよ、一連計算した方が過払い金が多くなるのが普通です。
 この問題についての最高裁判例を整理すると、@完済前と再借入の際の基本契約が同じもの(基本契約が1つ)の場合は空白期間を考慮することなく一連で計算できる、A完済時と再借入時で基本契約が異なるもの(基本契約が2つ)の場合は、完済前の取引(第1取引)の長さ、空白期間の長さ、完済時の契約書の返還の有無、カードの失効手続の有無、空白期間の貸金業者と借り主の接触状況、再借入時の基本契約(第2の基本契約)が行われる経緯、最初の基本契約と再借入時の基本契約の契約条件の異同を考慮して「事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる」ときには一連計算でき、そうでなければ一連計算できないということになります。東京圏では、後者の完済時と再借入時で基本契約が異なる場合について、空白期間が1年というのが1つの目安と考えられ、第1取引の期間が長い、契約書が返還されていない、カードの失効手続が取られていない(以前のカードがそのまま使える)、貸金業者が借り主に借入を勧誘している、契約条件が同じということが一連性を認める方向、そうでない場合は一連性を否定する方向に働くというようなことで判断されています。
 しかし、完済時と再借入時で基本契約が同じ場合でも、空白期間が長いと一連性を認めない裁判官もいますし、基本契約が同じなのにわずか数か月の空白期間で一連性を否定されているケースもあります。


空白期間が短くても分断されることがあるの?
私も基本契約が別だと10か月で分断されたことがあります。高裁で逆転しましたけどね。

《1回払いキャッシング問題》
 1回払いキャッシングサービスは、限度枠(20万円とか30万円が多い)の範囲で借り入れた金額を翌月か翌々月の引き落とし日に全額一括払いで返済するもので、マンスリークリア方式とも呼ばれています。
 近年、ニコスやクレディセゾンなどが、裁判で1回払いキャッシングサービスは一連計算できず、個別に計算すべきであり、その結果、返済後10年を経過したものは時効消滅しているという主張を、頑強にしてくるようになりました。
 基本契約に基づく貸し借りについて過払い金をその後の借入金に充当できるとして一連計算を認めた最高裁2007年6月7日第一小法廷判決は、返済が個別の貸付ではなく全体に対して行われる場合に一連計算を認めているのだから、個別貸付に対して返済している1回払いキャッシングサービスは一連計算できないというのです。
 最高裁2007年6月7日第一小法廷判決は、対象となるカード(オリコカード、アメニティカード)取引が借主が1回払いを選択できるカードであることを判示した上で一連計算を認めているのですから、信販会社側の主張は間違っていると私は考えていますし、裁判でも主張しています。しかし、信販会社側の主張が認められて1回払いキャッシングサービス(マンスリークリア方式)は一連計算できないという下級審判決も多く出されています。
 マンスリークリア方式と言われると、全額返してから次の借入をするように思わされますが、実態は違います。
 例えば限度額20万円、毎月10日締め、翌月5日引き落としの場合、2023年3月末に20万円借りれば、2023年5月8日(引き落とし日が休日の場合次の平日になるので)に預金口座から20万円引き落とされますが、その引き落とし前の(つまり借入残高が20万円残ったままの)2023年4月11日から5月10日までの間にさらに限度額内の20万円を借り入れることができるのです。
 そうすると何が起きるかというと、3月末に借りた20万円を返せない人が、翌月に20万円を借り入れてそれで3月末借入分を「一括全額返済」したことにできるのです。これは一括払いと言いながら、実態は20万円の借入をしたままでただ利息を払っているだけです。消費者金融から限度額いっぱい借り入れて利息だけ返している場合と実態はほとんど同じです。
 もちろん、1回払いキャッシングサービスを利用している人がみんなそういう状態というわけではなく、時々利用して本当にその都度全額返している人もいるでしょうし、返済のための借入を繰り返している人でも最初から最後までその状態ということもないでしょう。しかし、1回払いキャッシングサービスも性質上通常の借入とまったく違うというわけではありません。
 借入の実態を考慮して、1回払いキャッシングサービスについても一連計算を認める判決もあります。
 私がクレディセゾンとこの論点で激しく争った事件で、東京地裁2020年3月27日判決は、20年余の長期にわたり借入毎に与信審査を受けることなく、借入毎に貸付方法や貸付条件が定められることなく、利用限度額の範囲内で利用規約に従って1回払いキャッシングサービスを利用し続け、約定残高のある状態が長期にわたって継続し(たとえば1999年9月18日の借入後初めて借入残高が0になるのは2008年10月6日)、返済資金のための追加借入とみられる取引が多々あることから、「本件キャッシング取引は、1個の連続した貸付取引であると評価されるべきである」として一連計算を認め、その間に1年程度(366日が1回と396日が1回)の空白期間があっても空白期間前に長期間取引が継続しており契約書の返還もカードの失効もない(クレジットカードの場合それが通常)ことから分断されないとしています。
 1回払いキャッシングサービスに関しては、現在、熾烈な闘いがなされており、情勢は混沌としていますが、きちんと対応すれば、十分に闘えると私は思っています。
毎回全額借り直してるだけなのに1回払いの形だと扱いが違ってくるの?
裁判官も形式と理屈を重視したり、実態を重視したり、いろいろですね。

《貸付停止措置と時効問題》
  取引の一連性とは理論上は根拠というか論点が異なりますが、実質的に類似した問題として、借主が返済を怠り(その状態が長期間続いて)貸金業者から貸付停止措置を受け、さらには契約を解約されて、追加の借入を受けられずただそれまでの借入金を返済するだけの状態(そのための別の契約書を作成していることもあります)になった場合、その時点で過払い金の消滅時効が進行するかという論点があります。
 近年、アコムが度々主張し、その他の貸金業者も時々主張するようになっているものです。
 この貸金業者の主張が認められると、返済継続中でも過払い金請求権の時効が進行し、貸付停止措置や契約解約から10年経過するとそれ以前の過払い金は時効消滅し、過払い金請求から10年以内に返済した額とそれに対する過払い利息しか請求できないというこということになって、過払い金額が激減することになります。
 この論点については、過払い債権者側の弁護士は、貸付停止措置が恒久的なものではなく返済が進めば解除されうる性質のものだとか、借主に対して貸付停止措置が告知されていないという主張をして争うことが多く、現状は、どちらの判決もあるという状態で、情勢は混沌としています。
 私は、この論点の本家というべきアコムからはこの主張をされたことがありません。別の貸金業者がこの主張を本気でしてきたので本気で争い、他の弁護士とは違う観点で主張を展開し、一連計算前提の和解をしたことはあります。その事件では、依頼者との関係上和解が必要な事情があったので和解しましたが、私はこの論点では十分に闘えるという感触を持っています。   

《取引履歴一部開示問題》
 消費者金融の多くは創業以来の取引履歴を全部出してくるわけではなく、どこでも理論上は一部開示の可能性はあります。しかし、消費者金融大手は概ね1980年代以降の取引履歴は出してくるので、現実的には一部開示が問題となるケースはレアケースといってよいでしょう。
 現実的に取引履歴の一部開示が問題となるのは、消費者金融ではCFJ、新生フィナンシャル(レイク)、エイワ、信販会社ではオリコ、クレディセゾン、三菱UFJニコス(日本信販)、エポスカード(丸井)あたりです。
 CFJはケースバイケースで、どの時点以降の取引履歴が開示されるという基準が不明です。裁判で何度求釈明をしても基準を明らかにしません。合併を繰り返している会社なので記録の保管が統一されていないといってくるのですが、その合併前の会社ごとでもその基準が統一されていないので、その言い訳も信用できません。そして、一部開示の場合、開示の冒頭は借入から始まるので、保管されているのがそこからではなく、都合のいいところから開示しているのではないかという疑惑が付きまといます。
 エイワは、受任通知のときから10年分でやはり必ず借入で始まる取引履歴を開示してきます。エイワの場合、いわゆる基本契約の形ではなく、追加貸付のときは契約書を作り直し、貸付1回ごとに必ず契約書を作ります。その取引ごとに記録を保管していて、それをいまだに10年経過するごとに廃棄し続けていると主張しています。エイワ以外の中堅以上の貸金業者がすべて、取引履歴の開示義務があるとした最高裁判決(2005年7月19日)以降は取引履歴を一切廃棄しない取扱にしている(例外は破産したSFコーポレーションくらい)のに、今も廃棄し続けているといけしゃあしゃあと主張する神経には驚きます。
 この2社については、今のところ、借り主側で契約書や取引明細などをもっているとか銀行の通帳に記載があるとかの材料がないと未開示部分についての手当は難しい状況です。

 レイクは1993年10月以降の取引履歴のみが保管されている(それ以前の取引履歴は廃棄した)と主張しています。2013年3月29日に、一部の顧客については1990年1月から1993年9月の(日ごとではなく)月ごとの貸付金合計と入金合計の「参考データ」を発見したなどと発表し、そういうデータが出されることがあります。その場合、その間については少し手間をかけるとほぼ完全な推計ができます。レイクの場合は、開示冒頭の時点での借入残高(約定残高)があり、契約書の控えや申込書に当たる「エントリーカード」が開示されることも少なからずあります。以前はそういった資料に基づいて推計をしたり冒頭残高をゼロとした計算で比較的容易に和解できたのですが、最近は簡単には和解せずにごねるようになりました。

取引履歴が開示されない部分も過払い金を取れるのかい?
そこは弁護士の腕の見せどころですが、業者と裁判官によってどこまでできるか様々です。

 オリコは、1995年4月以降は取引履歴全部開示、貸付はそれ以前は不完全開示、返済は1990年1月5日以降(一部の顧客は1989年7月1日以降)を開示とされています。これらの開示がある部分は、オリコは貸付ごとに独特の「個別連番」を振っていて、それに基づいて推計をしてきます。オリコが開示しない時期の返済については、古い預金通帳があって引き落としがあるときには、それがキャッシング(借入)なのかショッピングなのかの争いになりますが、事例によっては同様の推計で和解できることもあります。
 クレディセゾンは、1991年5月以降の取引履歴を開示しています。クレディセゾンはそれと別に入会年月、借入総額、借入回数、返済総額、請求回数(返済回数)のデータをもっていて、これによってかなり精度の高い水系ができていたのですが、2018年2月から3月にかけてすべて廃棄したと主張していて、このデータが提出されることはもう期待できません。
 三菱UFJニコス(日本信販)は、カードによりますが、主力商品のマイベスト等については1995年1月か1994年11月以降の取引履歴を開示しています。カードごとの入会日は年月日が回答されます。以前は、入会日と開示初日の間の年数に応じて、ある程度の年数があれば冒頭残高をゼロとして和解できましたが、レイクと同様、近年は冒頭ゼロ計算での和解はほとんど応じない姿勢に切り替わっています。未開示部分について古い預金通帳があるような場合の推計についても、その引き落としがキャッシングかどうかを争って抵抗します。
 エポスカード(丸井)は、1997年4月からは全部開示、それ以前は一部開示です。開示は必ず貸付に始まり、その貸付に対応する返済のみが開示される形です(ですから、冒頭残高ゼロで、未開示部分を補うことはできません)。未開示部分について、古い預金通帳で引き落としの記載があるときは、その部分について、エポスカード側で推計をしてきます。預金通帳の記載があるところについてはそう悪くない推計だと思いますが、預金通帳の記載がない限りは一切妥協しないという姿勢をとり続けています。

 このように、取引履歴が一部だけ開示されて全部開示されていない場合、推計や冒頭残高をゼロとして計算することである程度補える場合もありましたが、近年は相当難しくなっています。また、エイワやCFJ、エポスカードのように「冒頭残高ゼロ」による解決ができない開示形態の業者もあり、悩ましいところです。

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