◆短くわかる民事裁判◆
忌避申立て後の流れ
一方当事者が裁判官の忌避を申立てて、即時抗告、特別抗告までした場合の流れとスケジュール感を、私が経験したケースを例に説明してみましょう。
東京地裁の民事第49部に係属した事件で、私が被告代理人で、こちらは第1回口頭弁論期日前に、もう十分と思える答弁書と書証を提出し、速やかに弁論終結して判決をいただきたいと考えていました。
原告(本人訴訟)から2021年2月11日付の忌避申立書が郵送で提出され、2021年2月15日、東京地裁の民事受付にまわり、民事受付は事件記録符号(モ)の事件番号を振り、事務分配の基準に基づき事件を別の部(民事第28部)に配点しました。この時点で訴訟手続は停止、指定されていた第1回口頭弁論期日は取消になりました。
2021年3月11日、民事第28部の合議体が忌避申立ての却下決定をし、翌12日には原告がこれに対して即時抗告をしました。原告が即時抗告状を東京高裁に郵送したため、東京高裁はこれを東京地裁に移送し(即時抗告状は、文書上の宛先は抗告裁判所である高裁宛ですが、原裁判所の地裁の民事受付に提出しなければなりませんので)、3月15日東京地裁の民事受付で事件記録符号(ソラ)の事件番号が振られて、民事第28部に送られました。
東京地裁民事第28部は、4月16日付で「本件抗告は理由がないものと思料する。」という意見をつけて東京高裁に事件記録を送りました。
東京高裁民事受付は、事件記録符号(ラ)の事件番号を振って、事務分配の基準に基づき、事件を東京高裁第9民事部に配点しました。
東京高裁第9民事部は、5月14日付で、「本件抗告を棄却する。抗告費用は抗告人の負担とする。」との棄却決定をしました。
抗告人(原告)は5月18日付で特別抗告を申し立て、これが5月24日に東京高裁で受け付けられました(このタイムラグは、地裁の事件記録上はわかりませんが、こちらも最高裁に郵送して最高裁から東京高裁に移送されたのかも知れません)。受付で事件記録符号(ラク)の事件番号が振られて担当部の東京高裁第9民事部に回されました。
東京高裁第9民事部は、5月25日付で、東京地裁民事第49部(基本事件係属部)に即時抗告の棄却と特別抗告申立てがあったことを記載した通知書を出しています。
東京高裁第9民事部は、6月7日、特別抗告人(原告)の(特別抗告費用についての)訴訟救助申立てを却下し、特別抗告手数料1000円を7日以内に納付するよう、裁判長が補正命令を出しました。(即時抗告の際は、同じ1000円の手数料を支払わずに訴訟救助が出ていたのですから、裁判官の気が変わったというところでしょうか)
特別抗告人が、その手数料1000円を納付しなかったので、7月29日、東京高裁第9民事部裁判長が、特別抗告書の却下命令(「本件特別抗告書を却下する。」:訴え提起手数料を納付しない場合の「訴状却下」に対応するものですね。このあたりは「訴状に印紙を貼らなかったら:訴え提起手数料不納付」で説明しています)が出され、これで特別抗告も終了となりました。
このケースでは、特別抗告が手数料不納付で高裁段階で却下となって終了しましたが、特別抗告が通常どおり最高裁に送られていたらさらに時間がかかったはずです。
それでも、ただ裁判官の忌避申立てをされ、即時抗告、特別抗告をされると、忌避申立てについての手続が終わるまで5か月半、その間ずっと元の裁判の手続は停止したままです。
「忌避申立てで訴訟手続はいつまで停止するか」で説明しているように、法的には、即時抗告棄却の時点で忌避申立て却下決定が確定し、訴訟手続を停止し続ける必要はないのですが、現実に停止を解いて動き始めるかは裁判所次第というところがあります。しかも、「忌避申立て却下決定に対する即時抗告審」で説明しているように、原告が忌避申立てしたときの被告には即時抗告審から何も連絡がなされません。
待っている側の当事者にとっては、なんとかしてよと思う数か月です。
民事裁判の手続全般については「民事裁判の審理」でも説明しています。
民事裁判の登場人物についてはモバイル新館の 「民事裁判の登場人物」でも説明しています。
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