◆短くわかる民事裁判◆
訴状に印紙を貼らなかったら:手数料不納付
訴えを提起する際(訴状を提出する際)、訴え提起手数料を納付しなかったら(印紙を貼らなかったら)どうなるでしょうか。
原告に資力がないということで訴え提起と同時に訴訟救助の申立をする場合は、もちろん訴状に印紙を貼らず、訴訟救助の決定を待ち、訴訟救助が認められれば、印紙を貼らないまま(訴え提起手数料を納付しないまま)裁判手続が進みます。しかし、訴訟救助が却下されたら、その時点で訴え提起手数料の納付を求められます。
また、訴状に貼るべき印紙額に複数の考え方があるような場合に、印紙は担当部と協議してから納付するということで訴状に印紙を貼らないまま民事受付を通すこともあります。もちろん、担当部から連絡が来た時点で、裁判所側の考えが示された上で、訴え提起手数料を納付するよう求められます。
弁護士が付いて上のような事情で訴状提出時点では印紙を貼らないという場合は、当然、この段階で印紙を納付します。
もしも、それでも納付しない場合、裁判所(民事訴訟法の規定上は「裁判長」:合議事件の場合でも3人の裁判官全員でではなく裁判長が単独でということです。民事訴訟法上の「裁判長」と「裁判所」の仕分けについては「裁判長と裁判所」で説明しています)は、一定の期間内に訴え提起手数料を納付するように命じます(民事訴訟法第137条第1項)。この命令は「補正命令」として、「頭書事件について、原告に対し、本命令送達の日から○日以内に、訴え提起手数料として、収入印紙○○円を納付することを命ずる。」とか「上記当事者間の令和6年(ワ)第○○号事件について、原告に対し、訴え提起手数料として収入印紙○○円及び訴状の送達に必要な費用として郵便切手○○円を納付することを命ずる。」などの主文で出されることになります。猶予期間を何日にすべきかは法律では決まっていなくて、7日間、10日間、14日間などの例があるようです。
指定された期間に訴え提起手数料を納付しないときは、裁判所(裁判長)は訴状を却下する命令を出します(民事訴訟法第137条第2項)。その命令の主文は「原告の訴状を却下する。」とか「本件訴状を却下する。」とされるようです。
※訴え提起手数料が納付されない場合に、訴状が被告に送達される前に却下するときは裁判長が訴状を却下しますが、訴状が被告に送達されたあとに却下するときは裁判所が(合議事件なら3人の裁判官全員でという意味)判決で訴えを却下します(民事訴訟法第140条)。その例を「訴訟救助の取消」で説明しています。
訴状が却下されると、それで訴訟が終了する、のですが…
まず、訴状却下命令に対しては即時抗告(そくじこうこく)ができます(民事訴訟法第137条第3項)。即時抗告期間は、命令の告知を受けた日(決定の送達を受けた日)から1週間です。即時抗告の申立にも手数料1000円の納付が必要です。それで、訴状却下命令が確定しない間、つまり抗告等がなされている期間中に、手数料が納付されたら、最初から手数料が納められたのと同じと扱われて、却下命令は取り消されるなどして効力を失い、訴えが復活します(最高裁2015年12月17日第一小法廷決定)。
また、訴状却下命令や訴え却下判決の場合、訴えの本来の内容についてはまったく裁判所の判断がなされていないので、原告は改めて同じ内容の裁判を提起することができます。(却下の判決や決定の効力については「判決主文:棄却と却下」、「棄却と却下:判決以外の場合」で説明しています)
ということで、訴状却下や訴えの却下、特に手数料不納付による却下の場合、それで最終的に決着するとは限らないということになります。訴状却下の場合、被告には訴状が送達されないので、そもそも被告は訴えが提起されたことも、それが却下されたことも知らないままになるのですが。
さらに、訴状却下の場合に時効完成猶予の効力があるかについては、「時効完成猶予と訴状却下」で検討します。
訴え提起手数料については「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の 「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
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