◆短くわかる民事裁判◆
訴訟費用額確定処分
訴訟費用の負担の裁判があると、訴訟費用を誰がどの割合で負担するかは定まりますが、誰が誰にいくら払うべきかは定まりません。それを定めるための手続が「訴訟費用額確定処分(そしょうひようがくかくていしょぶん)」です。
訴訟費用の取り立てを行う場合、訴訟費用額確定処分の申立をして、確定処分を受ける必要があります(民事訴訟法第71条)。
判決に必ず訴訟費用の負担の裁判が記載されていますので、一般の方はそれにしたがって訴訟費用の支払い/取り立てがあるのがふつうだと考えているようですが、弁護士の実務では、実際に訴訟費用の取立までやるのは稀です。依頼者から訴訟費用の取り立てをしてくれと言われたら、えっ、そこまでやる?と聞きたくなるのが正直なところです。実際に申し立てると裁判所の書記官からも困惑の様子が伝わってきます。
訴訟費用額の確定処分は、通常は判決が確定した後に1審の裁判所の書記官が行います(民事訴訟法第71条第1項)。判決で訴訟費用の負担の裁判部分に仮執行宣言がつけられた場合や、訴訟費用負担の裁判が判決と別に決定でなされた場合(訴訟費用の裁判の脱漏があったとき、裁判が取下で終了したとき、被告が請求を認諾したときなど)は、ただちに行うことができます(民事訴訟法第71条第1項は、確定したときではなく、「負担の裁判が執行力を生じた後に」と定めているので)。
訴訟費用額確定処分申立は、申立書と訴訟費用額の計算書(必要に応じてそれを裏付ける書類も)を1審の裁判所の民事受付に提出します。申立てに手数料はかからず、訴訟費用の負担の裁判と同じ弁護士が行うときは委任状も不要です。会社が相手でも資格証明書(法人登記簿現在事項証明書)の再提出も不要です。ただし、確定処分の送達用の郵券の予納は必要です(通常は、特別送達費用2通分で、現在は2440円となるはずですが、こちらが自分の分は裁判所まで取りに行くといえば1通分でよかったり、催告書送付用に普通郵便料金110円も求められることもあるので、裁判所に確認した方がいいです)。
申立書の副本(申立書と同じものをつくって印鑑を押します。訴訟費用額の計算書もつけます)は、民事受付に持っていくのではなく、相手方に直接送ります(民事訴訟規則第24条第2項)。直送の方法は交付(手渡しまたは郵送)かファクシミリによる送信です(民事訴訟規則第47条第1項)。
受付で民事雑事件として事件番号が振られ(事件記録符号は「モ」になります)、担当書記官に送られます。
申立があると、書記官は相手方に対して一定の期間を定めて、意見書の提出を求める催告書を送ります(ただし、相手方が訴訟費用を全部負担すべき場合で訴訟費用の額が記録上明らかなときは意見書の提出を求めないことがあります)(民事訴訟規則第25条第1項)。相手方の回答期限は、実務上は2週間程度とされることが多いようです。
相手方は、通常は、相手方に生じた訴訟費用を主張して計算書とともに提出します。もちろん、申立書の計算等に誤りがあるときはそれを指摘します。
相手方の意見書が出た後(あるいは相手方が意見書を提出せずに定められた期間を経過した後)書記官は、訴訟費用の支払を命じます。双方が一部ずつ訴訟費用を負担すべき場合で、相手方にも訴訟費用が生じている場合は、両者を相殺して差額のみの支払が命じられます(民事訴訟法第71条第2項)。相手方が書記官が定めた期間内に自分に発生した訴訟費用の計算書とそれを裏付ける書類を提出しない場合は、相手方に生じた訴訟費用を考慮することなく(相殺しないで)申立人に生じた訴訟費用のみの計算で相手方に支払を命じることができます(民事訴訟規則第25条第2項本文、第27条)。その場合、相手方は後日、自分に生じた訴訟費用について、別途、訴訟費用額確定処分の申立てをすることができます(民事訴訟規則第25条第2項但し書き:相手方は、催告書に回答しなかったからといって、それで自分の申立権を失うわけではないという趣旨です)。
この書記官の作成する文書は「訴訟費用額確定処分」と記載され、この文書によって強制執行をすることができます(民事執行法第22条第4号の2。実際に強制執行するときは、訴訟費用額確定処分の送達証明書と執行文付与(しこうぶんふよ)が必要です)。
訴訟費用額確定処分は、早ければ(訴訟費用が100%相手方負担のシンプルなケースで、担当書記官が慣れている場合)申立から1週間足らずで出ますが、計算が複雑だったり、担当書記官が慣れていなかったり(訴訟費用額確定処分の申立はそれほどなされませんので、書記官が初体験ということもよくあります)すると2か月とか3か月かかることもあります。
訴訟費用額確定処分は、「相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずる。」(民事訴訟法第71条第3項)とされていて、法令上は送達を要しない(普通郵便で送れば足り、特別送達を要しない)のですが、実際には少なくとも相手方には特別送達され、申立人にも特別送達されることが多いと思います。
訴訟費用とその取り立てについては「訴訟費用の取り立て(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の 「訴訟費用の負担(訴訟費用の取り立て)」でも説明しています。
**_****_**