残業代請求のための資料収集

出勤時刻と退勤時刻の特定

 残業代請求の訴訟(労働審判も同じ)を行うためには、訴状提出段階で、請求期間の1日1日について、出勤時刻と退勤時刻(及びその間の休憩時間)を特定する必要があります。毎日何時まで残業していたとか、毎週何時間残業していたというような主張では、裁判所は認めてくれません(相手にされません)。
 そして、その出勤時刻、退勤時刻は、原則として客観的な資料によって立証する必要があります。
 裁判所に対して一番認められやすいのは、使用者が労働時間管理に使っているもの(タイムカード、コンピュータ上の勤怠管理システム、業務報告書、業務日報など)のコピーやプリントアウトです。このようなものを退職前(残業代請求前)に入手しておくと、残業代請求訴訟がスムーズにいきます。
 そのコピーやプリントアウト自体が入手できなくても、使用者が何により労働時間を管理しているか、使用者の手元にはどんなデータがあるかを確認しておくことは有用です。後日弁護士が相手方に請求するにしても、何があるのかわからなければやりにくいです。
 これらの資料が入手できないときでも、労働者が自主的にできることとしては、パソコンで業務を行う労働者の場合、パソコンのオン・オフのログをとる(ログの取り方についてはネットでいろいろアドバイスがあります)、勤務先のパソコンから自分宛に毎日帰るメールを送る、帰りにデジカメ等で社内の写真を撮影するなどの工夫があり得ます。

 私の経験で、何の記録もないコンビニの店長の残業代請求(コンビニだと、24時間営業なので開店・閉店時刻さえない)をしたときに、コンビニの本部からレジのジャーナルデータのデジタルデータを調査嘱託で取り寄せたことがあります。少なくとも、レジ操作をしているときは客観的に在店しているということが立証できるという目論見です。しかし、1日分で1万行あまりのテキストデータ2年分から特定人のレジ操作データを抽出するのは(もちろん、エクセルに張り付けて関数で抽出して並び替えをして切り出すのですが)、とんでもない作業で、疲れ果てました。もう1度は、やりたくないなぁ。

業務内容の記録

 残業代請求の準備として、可能ならば、当時どのような業務をしていたのか、何の業務で忙しくて残業していたのかを記録し、その裏付けになる資料も保管しておくとよいと思います。

 使用者側から、たいていの場合、社内にいたけど仕事はしていなかったとか、残業は命じていないなどの主張が出ます。通常は、裁判官が相手にしませんが、裁判官が気にすることもあります。そういうときに備えて、1日1日までいりませんが、残業が多い時期には、何の業務をしていたのかとか、なぜ残業が多かったのかを説明できるような資料があると、使用者側のそういった主張を崩すことができます。
 使用者側の弁護士から、タイムカードによる労働時間の推定を否定した判決としてよく挙げられるオリエンタルモーター事件の東京高裁判決(2013年11月21日判決)も、労働者が研修中の新人で1人で営業を担当することもなく残業してまでする業務などなかったという認定を前提としています。そういう判断をされないためにも、残業が必要なほど業務をしていたことの裏付けを持っておけば安心です。

給与明細書

 残業代請求では、使用者が支払う賃金のうち時間外手当や一部の手当てを除いた賃金を基礎に1時間当たり賃金を計算して、支払うべき残業代を計算し、そこから既払いの時間外手当を差し引いて請求します。その1時間当たり賃金の計算と、既払い時間外手当の差引の両面で、給与明細書が必要です。これも、なくしている場合は、退職前(残業代請求前)に再発行してもらっておくべきです。

就業規則と賃金規程

 まず、賃金の支払い対象時間を確認するために、就業規則で「所定労働時間」と「休日」を確認する必要があります。この所定労働時間と休日は、残業代計算で1時間当たり賃金を計算するときにも必要です。また残業時間を計算する前提として、労働時間の例外的な制度(変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制等)が適用されていないかを就業規則で確認する必要があります。変形労働時間制との関係では、勤務時間がシフト表等で指定されている場合は、そのシフト表もあった方がいいです。
 そして、法定割増率を超えた割増率が定められていることもありますから、賃金規程でそれを確認する必要があります。各種の手当が基礎賃金に含まれるかの判断や、固定残業代と主張されるものがその性質を持つかの判断のためにも賃金規程の規定ぶりを見る必要があります。
 また、賃金の締日と支払日も就業規則ないしは賃金規程で確認しておく必要があります。
 このように、就業規則と賃金規程は、残業代請求では必須と言えますので、退職前(残業代請求前)に入手しておくことが望ましいです。  

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