本人請求でも大丈夫?(過払い金返還請求の話)

 過払い金返還請求は、本人がやっても、どんな弁護士がやっても、きちんと取り返せると思いますか。

「本人でもできる」は、どこまで当てはまるのか

 ネット上、「過払い金返還請求はだれがやっても同じ」、「本人でもできる」、「弁護士費用を差し引いたら本人請求でも同じ」というような記載を目にすることがあります。
 本人が現実に経験したものだろうとは思いますが、私には、たぶんそういう経験は、2006年頃の過払い金請求が本当に楽だった時期のものか、途中で完済したとか時効とかの論点もないすごくシンプルな事案でしかもその人が注意深い人だったかラッキーだったかなのではないかと感じてしまいます。
 過払い金請求のことを十分に理解していない人が、貸金業者やその弁護士と相対することには、いくつかの危険があると私は感じています。

過払い金額を理解しているか

 アイフルに約定残高(残債務)が158万円あった借主が、2015年4月に司法書士経由で取引履歴を請求し、アイフルと電話で自分で計算したがよくわからないと言ったところ、アイフルから過払い金が239万円あると言われました(これはアイフルが過払い利息を載せずに計算した額です)。借主は、それを聞いて自分が受け取れる過払い金が239万円-158万円の81万円と誤解しました。借主はアイフルにそう確認しましたが、アイフル側は言葉を濁しはっきりと言わなかったそうです。借主は、司法書士からアイフルからは過払い金の40~60%しか取れないと聞かされていたため、40万円での和解を希望しました。それに対してアイフルは35万円を提示し、借主はそれで和解書を送ってくれと述べました。送られてきた和解書には「過払い金は239万6540円」と記載されており、それを見た借主は弁護士に相談に行き、本来受け取れる過払い金が239万円だと言われ、アイフルからの和解書を返送しませんでした。
 この段階で、その借主は私のところに相談に来ました。借主が私の前に相談した専門家は、アイフルと電話で合意したから35万円しか請求できないと答えたそうです。民法学の世界では、理論的には口頭(口約束)でも合意は成立するということになりますが、私は、実務的にはそれはないだろうと思います。私は、貸金業者が口約束だけで合意するなんて実務上あり得ないし、現に合意書を作ると言って送ってきたのに署名押印して返送していないのだから合意は未成立だと説明しました。
 過払い金請求訴訟を起こし、アイフルの担当者は私に電話で、録音もあると豪語して、低額の和解を持ちかけてきましたが、私は「それならさっさと録音を出せばいい」とはねつけ続けました。結局、アイフルから録音は最後まで出てこず、2016年1月28日に受けた判決で、裁判所は「被告のような貸金業者の取引において、書面によらない合意がされるということ自体が通常想定しがたく、被告が原告に和解契約書案を送り、原告が同契約書に署名押印した上での返還がされていないという事実関係に照らせば、最終的にその契約書案の内容に原告が同意しなかったものというべきであり、被告が主張する和解契約が締結された事実は認められないものというべきである。」として、私の主張を全面的に認めてくれました。
 最終的にアイフルから回収した過払い金は、支払日までの過払い利息付きで313万2082円(+訴訟費用4万8976円)でした。
 もちろん、本人が問題なく回収できることはあるでしょうけれども、こういう誤解をするようなケースも現実にあります。このケースで借主が私に相談しなければ、どれほどの損をしていたことになるでしょう。こういったケースを見ると、私には、「本人でもできる」とか「誰でもできる」という言葉を鵜吞みにすることがずいぶん大きな危険をはらんでいるように思えます。

貸金業者側の主張に対応できるか

 過払い金請求訴訟は、(取引履歴の未開示部分について争いになる場合や、上のアイフルの例のような和解が問題になるような場合を除いて)事実認定が争点になることは多くはなく、主として法律論の闘いになり、最高裁判決を中心とする判例についての知識と論理展開力が勝負の決め手になりがちです。
 過払い金請求訴訟には、原告側(借主側)は過払いバブルのおかげで、被告側(貸金業者側)は貸金業者の資金力によって、多数の弁護士が群がるようにかかわっています。弁護士が多数参戦する分野では、必然的にさまざまな法的主張が工夫され編み出され、マニアックな議論がなされて、専門性というか、主張の技巧性・難易度が上がっていきます。現在の過払い金請求訴訟は、その度合いが強まり、だれがやっても変わらないどころか、弁護士の腕に左右される程度が相当高くなってきていると思います。
 貸金業者側からは、過払い金請求を妨げ、請求できる金額を減らすためのさまざまな法律論が主張されます。その多くは、あまり意味のないものですが、その主張の意味合い・通用力がわからないと、判決の見通しが立たずその不安から不利な和解を強いられることになりかねません。自分で法的な主張を考えられない人が、内容がわからないままに、どこかから法的な主張をコピペして反論しても、そういうこと(内容がわからないで主張していること)は見て取れますから、貸金業者側に弁護士がついていれば踏み込んだ再反論が来ます。自分で考える力がない人は、それにさらに反論することができず、押しつぶされがちです。裁判は相対的なものですし、流れがありますから、そうなってしまうと、本来なら通じないような理屈でもそれで貸金業者が勝ってしまうということもあり得ます。

 貸金業者側の弁護士が、考え出した変な法律論の一例を紹介します。
 取引途中に利率が下がり利息制限法の制限利率以内となった取引について「上記取引は、制限利率内約定でした当事者双方に期限の利益のある取引であるところ、このような取引で支払いを受けた利息については、民法136条2項但書の帰結として不当利得返還請求の対象とならないのが大原則である。」「平成15年7月18日最高裁判決も民法136条2項但書の例外が適用される場面を限定している」「同最高裁判決は、期限前弁済のときに利息を取得することはできない場合を『充当される他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合』に限定し、それ以外の場合には貸主の期限の利益を保護する論理を採っている。」→「約定利率が制限利率を超えていない取引は引直し計算の対象にならない」というのです。
 この主張は、最近ニコス(三菱UFJニコス:旧日本信販)の代理人の弁護士が好んで行っているものです(私がやっている裁判で2016年6月、2016年8月に出してきた準備書面から主張を要約しました)。私は、このような主張が通ることはあり得ないと考えていますし、こういう主張は数行程度の反論で軽く跳ね返せるものです。それでも裁判で反論ができないでいると、不利な和解に追い込まれかねませんし、こういう主張でも認められてしまうことがあるかもしれません。私の感覚では、この程度の主張について、反論ができないレベルの人は、現在の過払い金請求訴訟の現場には立ち入らない方が無難だと思います。


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