解雇予告手当

 解雇予告手当を払えばそれで解雇が有効になるというわけではありません。懲戒解雇だから当然に解雇予告手当が不要になるわけでもありません。

解雇予告手当という制度

 労働基準法第20条は、解雇は30日以上前に予告するか、そうでなければ30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとしています。この30日分の平均賃金を解雇予告手当と呼んでいます。

 平均賃金は、直前の賃金締日から遡って3か月分の実賃金総額をその期間の日数で割った金額(ただし日給や時間給の場合に3か月分の実賃金総額を実労働日数で割った金額の6割がそれより高いときはその高い金額:週の労働日数が4日以下のときにこの規定が効いてきます)です(労働基準法第12条)。例えば毎月末日締め翌月25日払で3月分が24万8000円、4月分が25万5000円、5月分が27万3000円、6月分が26万4000円だった労働者を7月5日に即日解雇した場合、(4~6月分合計79万2000円÷91日で)8703円、6月25日に即日解雇した場合、(3~5月分合計77万6000円÷92日で)8434円となります。

 労働基準法は、30日以上前の予告か解雇予告手当の支払を求めているのですから、30日以上前に予告された場合には、解雇予告手当は支払われません。その場合は、解雇の日までの給料が支払われるのです。

 実際はそういうことはないでしょうけど、30日未満の予告期間をおいて解雇した場合、例えば10日後に解雇するという通告の場合、20日分の平均賃金が予告手当となります。

 もっとも、日雇いの労働者(連続雇用が1か月以内の場合)、2か月以内の期間の有期契約(更新していない場合)、4か月以内の期間の季節的労働者、14日以内の試用期間中の者については、解雇予告手当の制度の例外とされていて、使用者は予告手当支払義務を負いません(労働基準法第21条)。

解雇予告手当と解雇の効力

 30日以上の期間を定めた予告がなく、直ちに解雇すると言われ、使用者が解雇予告手当を支払っていない場合、解雇の効力はどうなるでしょうか。労働相談をしていると、使用者が解雇予告手当を支払わないので解雇は無効だとか、そういうふうに聞いたとかいう相談者がよくいます。残念ながら、裁判所は、その場合でも、解雇を告げられた日から30日が経過した時点で解雇の効力が生じる(有効になる)と判断しています(細谷服装事件・最高裁1960年3月11日第二小法廷判決)。

 他方、使用者側には、解雇予告手当を支払いさえすれば解雇は有効だと誤解している人が時々見られます。予告手当を支払っても、解雇権濫用に当たれば解雇は無効です。

 結局、純理論的にはともかく、実務的には、解雇予告手当の支払は、労働基準法上の義務(労働基準監督署の指導・勧告・処罰の対象となる)で、解雇の効力とは関係ないと考えておけばいいでしょう。

懲戒解雇と解雇予告手当

 使用者側には、解雇予告手当は普通解雇の場合だけで懲戒解雇の場合は払わなくてよいという誤解が時々見られます。労働基準法には「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は解雇予告手当の支払義務がないという規定があります(第20条第1項但し書き)が、それについては労働基準監督署の認定を受けなければならないということもはっきり規定しています(第20条第3項、第19条第2項。この規定が、別の条文を引用する形になっているので素人にはわかりにくいのですね)。この労働基準監督署の認定(業界では「除外認定(じょがいにんてい)」と呼んでいます)は、実際には、そう簡単には出ません。ですから懲戒解雇の場合も、たいていは解雇予告手当の支払義務はあることになります。

 懲戒解雇の場合、就業規則では、解雇予告手当を支払わずに解雇すると定められていることが多く、使用者が解雇予告手当を支払わないために労働基準監督署に除外認定の申請をすることがあります。
 除外認定の申請がなされると、労働基準監督署は、使用者に相当な量の資料提出を求めるとともに、労働者側にも事情聴取をします。それによって、労働者は、使用者が除外認定の申請をしたことを知ることができます。除外認定の審査はそう長期間にはなりません(本来は解雇前に申請して解雇前に認定を受けるべきものです)。労働基準監督署から認定されたかどうかの知らせが来ることも多いと思いますが、申請があった場合は、労働者の方でも労働基準監督署に結果を聞いておいた方がいいでしょう。除外認定は、不認定となる場合も多いですので、その場合は、訴状等にも、使用者が除外認定を申請したが認められなかったと書いてやればいいです。(そういう事情もあり、労働事件の実務をよく知っている使用者側の弁護士は、懲戒解雇の場合でも、30日前に予告するか、予告手当を支払うように助言することが多いと聞いています)

付加金

 解雇予告手当については、使用者が支払わない場合、裁判所は解雇予告手当の支払に加えて、それと同額の「付加金」の支払を命じることができます(労働基準法第114条:命じるかどうかは裁判所の自由です)。ですから、裁判上請求する場合は、付加金の支払いも請求しておくべきです。

解雇を争う場合と解雇予告手当

 解雇予告手当は、理屈としては解雇が有効になされていることを前提とすることになります。ですから、解雇自体を争いたい、つまり解雇が無効だと主張して復職を求めるような場合は、労働者側から解雇予告手当を請求することにはなりません。
 裁判等で、使用者側から、労働者が自ら解雇予告手当を請求したり受け取ったりしたことを捉えて、労働者側も解雇を有効と認めていたとか争わない態度をとっていたなどと主張されることが、時々あります。それだけで裁判所が、労働者側は解雇を争えないと判断することはたぶんないと思いますが、揚げ足をとられないように、解雇を争う予定の場合は、解雇予告手当を請求したりしないようにしましょう。
 使用者側が、解雇予告手当だといって送りつけてきたり給料振込口座に送金してきた場合は、解雇を争う場合には、理屈としては、突っ返すか、「解雇予告手当とは認めない。未払の賃金に充てる」という手紙を出しておくのがいいということになります。


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