民事裁判のうちどれくらいが和解で終わっているか、知っていますか?
民事裁判では、裁判所から当事者にこの件は話し合いはできそうですかと聞いてきたり、裁判所として和解を勧告しますと言って、和解の協議になることが多いです。民事裁判は紛争の解決を目的とするものですから、判決をしなくても当事者が合意できればそれでいいという考えです。
2022年中に終了した地裁の民事第一審事件での和解率は32.8%、そのうち労働事件だけを見ると和解率は52.8%に達しています(「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第10回)」2023年7月28日公表)。
和解の合意ができれば、裁判所が合意内容を調書にします。和解調書は、判決と同様、それに基づいて強制執行ができます。話し合いが決裂すれば、和解はできず、通常の裁判の手続に戻ります。
和解をするメリット
和解をする場合には、裁判の手続を進める中で、判決の行方が見えにくい(勝つか負けるか判断がつかない)場合、判決になると通常は100か0かということになりますので、負けるリスクがある(大きい)ときには、ほどほどのところで和解をすることでダメージ(リスク)を減らすということを考えて和解をするというパターンがあります。
判決で勝てると判断できる場合でも、裁判所の判断をもらう(白黒を付ける)こと自体が目的でなく、判決で実現するべき内容を実現することが最優先の場合(民事裁判制度は、どちらかというとそういうケースを予定していますけど)、判決を取るにはまだ相当時間がかかるということを考えて、同じことなら和解で決着しようということもわりとあります。私は、近年は、訴状からしっかりと主張を組み立てて、早い時期に勝勢を確保して、有利な(実質勝訴の内容の)和解をしようと考えるケースが多くなっています。
判決が見えている場合、通常は双方の弁護士がそれは判断できますので(そうでない人も時々いて困りますが)、予想される判決内容に近いところで双方が希望する条件を調整(判決が見えている場合、予想される判決と大幅に違う内容での和解は無理ですので、基本的には「微調整」)して和解内容を決めることになります。
また、勝訴判決が予想される場合でも、判決では付けられない条件を付けたいということを考えて和解するというパターンもあります。判決で裁判所が命じられる内容は割と狭い(選択肢は少ない)ので、和解によって、判決では得られない内容を取ることも、現実的にはめったにないですが、ときにはあります。
裁判所からの和解勧告
裁判所が和解勧告をするタイミングはさまざまです。あらゆる段階で和解勧告があり得ます(民事訴訟法第89条)。第1回口頭弁論期日で和解勧告があることもありますし、準備書面のやりとりをしている段階でも時々聞かれます。準備書面が大方出尽くして人証調べをするかどうかという段階で和解勧告がなされることもよくあります。人証調べが終わり、あとは判決というときにもよく和解勧告がなされます。
といっても、和解勧告が必ずあるというわけではなく、裁判所が当事者の様子からこの事件はおよそ和解は無理と考えているときやほぼ一方的な事件の場合など、和解勧告が一度もなく判決に至るということもあります。
和解期日と和解の進行
和解の協議は、通常、法廷ではなく、書記官室のエリアの小部屋で行われるか、Web会議を用いて行われます。和解が行われる部屋は、裁判所の部屋の通例で窓がない部屋で、テーブルと椅子が置かれた会議室のかなり狭いものをイメージすればいいです。置かれているテーブルと椅子は応接セットの場合もあります。
和解の席では、裁判官も黒い法服ではなく通常の服装(スーツや「クールビズ」スタイル)で登場します。通常は、原告側、被告側の片方だけが部屋に入れられ、相手方のいないところで和解についての意向(和解する気があるか、どういう内容なら和解する気があるか)を聞かれたり、裁判所の和解案を示されたりします。Web会議の場合は、双方がWeb会議なら一方と回線をつなぎ他方の回線を切って、一方が出席一方がWeb会議(一般的にはあまりないでしょうけど、私は原則出席主義なので、そういうこともよくあります)ならWeb会議側の当事者の話を聞くときは出席当事者が退室し出席側当事者の話を聞くときは回線を切ります。それが交互に行われ、和解がまとまりそうならば続けられ、とてもまとまりそうにないということになれば打ち切られます。
和解案についてその場で決められないときは、持ち帰って検討するということになり、多くは和解期日が続行されます。裁判所は、和解ができそうなら和解で解決しようという考えを持つことが多いので、即答できなければ打ち切りという姿勢はあまりとりません。
和解の協議時に、裁判所が積極的に和解案を出すか、当事者の意向を聞いて調整するにとどめるかは、裁判官の考え方や審理の段階によります。かつては裁判官は当事者に心証を示さないのが美徳とされていましたが、今どきは和解のときには心証を示すことが多いので、弁護士にとっては和解期日は裁判官の心証を把握するチャンスでもあります。人証調べ後の和解で裁判官が和解案を示すときは、判決ならばこうなるということに沿った和解案が示されることが多いようです。
和解の合意ができれば、書記官が呼び入れられて、その場で和解の合意内容が確認され、それに基づいて書記官が和解調書を作成します。
以前は、和解を成立させるときには、当事者の片方は裁判所にいなければなりませんでした(双方がWeb会議だと「弁論準備期日」にならず、「書面による準備手続」で、「書面による準備手続」では和解ができないため)。しかし2023年3月1日以降は、双方がWeb会議でも弁論準備期日とできることになり、和解を成立させることができるようになりました。
和解の合意と和解条項
裁判所で和解する場合、和解の内容は、裁判で求められていた請求内容に関しては、違反した場合に強制執行ができる形の条項にするのが通常です。ただ、内容は話し合いですので、当事者の合意ができれば、強制執行ができない内容も和解条項に入れることができます。その場合は、その部分は紳士協定ということで、自主的に守ってもらいましょうということになります。
和解内容を他言しないという守秘義務(しゅひぎむ)の条項(口外禁止条項ともいわれます)をつけるかどうかも、話し合い次第です。私の経験上は、労働事件では会社側が守秘義務の条項を求めてくることが多いですが、それ以外の事件では割合としては多くはありません。守秘義務条項を付ける場合、「正当な理由なく第三者に口外しない」等の条項にするのが通常で、守秘義務条項違反に対する制裁・違約金条項はつけないのがふつうです(そこまで要求する傲慢な会社側の担当者も稀にいますが、私は認めたことはありません)。また、会社側から守秘義務条項を求められても、それを拒否して、守秘義務条項なしで和解したこともあります。世間では、和解では当然に守秘義務条項がつくものと考えている人が多いようですが、和解の実態は必ずしもそうではありません。
裁判所での和解では、当事者が争っていたことに関する和解内容を決めた上で、通常、原告側がそれ以外の請求を放棄すること、この和解条項で定める以外には当事者間に権利・義務が残らないこと(清算条項)、訴訟費用は各自の負担とする(相手方に請求しない)ことが定められます。この裁判で争っていたことは、この和解ですべて解決しましたということの確認です。当事者間で、別の紛争や権利義務関係があるときは、清算条項を作るときに、「本件に関し」という言葉を入れておくことになります。
和解調書は、和解の合意ができたあと早ければその日、遅くとも数日のうちに作成されます。和解の合意のときに書記官から、裁判所に取りに来るか、郵送を希望するかを聞かれ、取りに行くというと調書ができた時点で電話をくれますので裁判所に印鑑を持って取りに行きます。
裁判外の和解と受諾和解
裁判の期日外に当事者間で話し合って合意ができた場合、どうすればいいでしょうか。このようなときには、裁判外で合意書を作って和解の内容が実行されたら(和解金が現実に支払われたら)訴えを取り下げるという方法と、合意の内容を裁判上の和解にする(和解調書を作成する)方法があります。
裁判外和解で実行後取り下げというとき、その実行(支払)予定がだいぶ先だと、裁判所が裁判の進行を待っていられないということがあり、この方法は支払予定日が近いときでないととりにくいです。
裁判上の和解にする場合、双方が口頭弁論期日に出席すればその場で和解成立にできます。片方しか出席しない場合は、予め和解条項を作成して、裁判所から欠席する側にFAXで送り、その内容で和解に応じるという書面が提出されていれば、口頭弁論期日に片方しか出席しなくても和解ができます(民事訴訟法第264条)。この手続を「受諾和解(じゅだくわかい)」と呼んでいます。両方欠席の受諾和解はできず、片方は必ず出席しなければなりません。(※民事訴訟法の2022年改正により、双方欠席の受諾和解も可能とされました:民事訴訟法第264条第2項。ただし施行は2025年で施行日未定です。現時点で双方Web会議でも和解成立可能=「出席」はWeb会議でいいので、この改正規定が必要となるケースは少ないと思いますが)
期日外合意・取り下げや受諾和解は、現実には、消費者金融・信販会社に弁護士がついていない過払い金請求訴訟で期日外に電話で合意したときに、こういう形で和解するということが多いですが、もちろん、他の事件でも利用できます。
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