判決に不服があるとき(民事裁判の控訴・上告・再審)

 1審と控訴審・上告審では進行が大きく違います。どう違うかわかりますか。

上訴

 判決に不服があるときには「上訴(じょうそ)」ができます。1審判決に対する上訴を「控訴(こうそ)」(民事訴訟法第281条)、控訴審(2審)判決に対する上訴を「上告(じょうこく)」といいます(民事訴訟法第311条)。

 民事裁判では、1審が地方裁判所の場合は、控訴審は高等裁判所(裁判所法第16条第1号)、上告審は最高裁判所が担当します(民事訴訟法第311条)。家事事件の場合、1審は家庭裁判所ですが、この場合も、控訴審は高等裁判所(裁判所法第16条第1号)、上告審は最高裁判所になります(民事訴訟法第311条)。
 1審が簡易裁判所の場合は、控訴審は地方裁判所(裁判所法第24条第3号)、上告審は高等裁判所が担当します(民事訴訟法第311条)。1審が簡易裁判所の場合の上告審の高等裁判所の判決に対しては、憲法違反を理由とする場合に限り、さらに最高裁判所に特別上告をすることができます(民事訴訟法第327条)。

 控訴、上告は、全部勝訴した側はすることができません。つまり、判決の事実認定や理由に不服があっても、請求が全部認められた場合の原告は控訴できず、請求棄却の場合の被告は控訴できません。また、訴訟費用の負担に関する部分だけについての不服申立もできません(民事訴訟法第282条)。
 極めて例外的に、全部勝訴した原告が控訴できるとされた事例があります。ものすごく稀でマニアックな話ですから、ふつうは考える必要がありませんが、念のために説明しておきます(わかりにくい話だと思いますので、少し丁寧に説明します。関心がない方はこの長い段落を飛ばし読みしてください)。1審で裁判官が1人で審理した事件で、第1回口頭弁論期日に被告が答弁書等を提出せず出席しなかったので口頭弁論を終結し、第2回口頭弁論期日に別の裁判官が判決書を作成しないでいわゆる調書判決(民事訴訟法第254条)の形で、いわゆる欠席判決の言い渡しをしました。欠席判決をする場合でも、第1回口頭弁論の担当裁判官が判決書を作成していればその裁判官が判決をしたことになります。そのときに、別の裁判官(判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官)が判決書を代読して言い渡しても問題はないとされています(最高裁1951年6月29日第二小法廷判決)。判決の代読は、裁判官の異動などの事情で、実務上、わりとあります。しかし、判決書を作成しないで調書判決にした場合は、判決言渡期日である第2回口頭弁論の担当裁判官が判決をしたということになります。その(判決をしたことになる)裁判官が、口頭弁論終結までは何ら担当しておらず、口頭弁論終結後にだけ関与したということになるので、問題にされたわけです。要するに、欠席判決をするときに、第1回口頭弁論を担当した裁判官が判決書を作成していれば、判決の言い渡しは別の裁判官が行っても問題なく、調書判決にする場合でも第1回口頭弁論を担当した裁判官が言い渡せば問題がなかったのですが、判決書を作成せずに調書判決にしたことと言渡が(口頭弁論終結前に関与していない)別の裁判官だったことが重なったために問題となったのです。このケースでは、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をしたことが、直接主義(民事訴訟法第249条)違反という民事訴訟法の根幹に関わる違法があり、その違反が訴訟記録により直ちに判明することがらで、法律に従って判決裁判所を構成しなかったという再審事由(民事訴訟法第338条第1項第1号)に該当することから、この1審判決によって紛争が最終的に解決されるということもできないとして、このような場合には全部勝訴した原告が1審判決に対して控訴することができるとされました(最高裁2023年3月24日第二小法廷判決)。この最高裁判決は、手続上の(裁判所の立場から見て重大な)ミスがあり、その理由によって再審が認められるような場合に、それでは最終解決にならず不安定(敗訴した被告が後々再審請求したらそれが認められてしまう)ということを考慮して特別に控訴を認めたものと解されます。
 全部勝訴した側は(上で紹介したようなごく稀な手続上のミスがあった場合を除いて)自ら控訴することはできませんが、相手方が控訴した場合に、次に説明する附帯控訴をして、請求を拡張することはできます(最高裁1957年12月13日第二小法廷判決)。

 一部勝訴の場合は、当事者双方が自分の敗訴部分について控訴、上告ができます。この場合、相手が控訴・上告しないなら自分も控訴・上告しなくてよいという考えでいると、相手が控訴・上告したと知ったときには上訴期間を過ぎていることがあります。そういう場合に上訴期間内に上訴しなかった側も、相手が上訴している限り、上訴期間経過後に上訴をすることができます(民事訴訟法第293条第1項、第313条)。これを裁判業界では「附帯控訴(ふたいこうそ)」「附帯上告(ふたいじょうこく)」と呼んでいます。附帯控訴、附帯上告は、相手方が行った控訴、上告が取り下げられたり不適法として却下されると、上訴としての効力がなくなります(なかったことになります)(民事訴訟法第293条第2項)。

 控訴の提起、控訴審での審理の実情等については「控訴」の項目で詳しく説明します。
 上告については、高裁への上告(1審が簡易裁判所の事件)については「高裁への上告」の項目で、最高裁への上告については「最高裁への上告」の項目で、詳しく説明します。

再審請求

 上訴がなされないか最終審の判決が出ると判決は確定します。確定した判決に対して、民事裁判でも「再審」を行うことができることになっています。しかし、再審の条件はかなり厳しく限定されていて、刑事事件の再審と違って新しい証拠を見つけたということは再審の理由になりません。民事裁判では(刑事裁判の場合と違って)制度上、確定判決が誤りであることを完全に(まったく疑いないところまで)立証できる証拠を見つけたとしても、それだけでは再審の理由とならないのです。民事裁判では再審が認められることは、ほとんどないといってよいでしょう。再審理由については、「再審請求」の項目で、詳しく説明します。


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