過払い金返還請求の話

 弁護士や司法書士が広告までしているので、過払い金返還請求という言葉は聞いたことがあると思いますが、その内容をしっかり理解していますか。

借金と過払い金返還請求

 多額の借金を抱えて返済ができなくなっている人の負債(ふさい)を減額したり返済方法を見直したりして返済可能にしたり、借金をなくして再出発できるようにすることを、業界では「債務整理(さいむせいり)」と呼んでいます。これにはいろいろな手段とテクニックがあります。
 その中でも、最も基本的で重要なことは、消費者金融や信販会社(クレジットカード会社)から高い金利で借りて長い間返済をしてきた人の場合は、利息制限法(りそくせいげんほう)の制限利率(借入金の額に応じて年20%~15%:利息制限法第1条第1項。消費者金融や信販会社の場合たいていは10万円以上100万円未満の場合の年18%が適用されます)で再計算して法律上の正しい借金額になおすことができるということです(このような再計算を「利息制限法引き直し計算(りそくせいげんほうひきなおしけいさん)」などと呼んでいます)。2007年頃から信販会社や消費者金融の金利は利息制限法の範囲内に変更されたものが多く、最初の借入から利息が制限利率(年18%等)以下の場合は、借金は減額されません。しかし、今は金利が安くなっていても、借り入れた時点では高金利だった場合は、借金の額は減額できます。長く借入・返済を続けている場合は、本当は借金はなくなっていて、過払いとなり、消費者金融や信販会社から過払い金を取り戻せることも少なくありません。

債務整理と過払い金請求の基本的な考え方

 消費者金融などから多額の借金をしている人について、弁護士が依頼を受けた場合、概ね次のように考え、進めていくことになります。
 現在借金があって返せなくなっている人の場合、まずは貸金業者からの取立(とりたて)を止めるために、すぐに受任をして受任通知(弁護士がついたこと、今後支払を停止した上で債務整理を行うことを伝え、同時に今後本人に接触しないこと及び取引履歴の開示を求める通知)を出します。弁護士等からの受任通知後に借主に対して直接取立をしたり連絡することは禁止されています(貸金業法第21条第1項第9号)から、まともな貸金業者は、受任通知が来れば本人への取立をストップし、本人には連絡も督促もしなくなります。取引履歴が来たところで利息制限法引き直し計算を行い、債務が残るのか過払いかを判断します。過払いの場合は、基本的にすぐに貸金業者に対して取立を行います(今どきは、ほとんどの消費者金融や信販会社は交渉では相当値切った額しか回答せず交渉しても時間の無駄ですから、基本的にすぐ裁判を起こします)。債務が残る場合、ほかの貸金業者から過払い金を回収すれば支払えるケースなら、過払い金回収を先行して、その後に債務が残る貸金業者に支払って終了となります。過払いがないか、あっても債務の方が多いときは、依頼者の支払能力と財産の有無、意向に応じて、支払条件を交渉して支払っていく(任意整理)か、破産か個人再生手続を行います。これについては「借金が残るとき」の項目で説明します。
 借金があり、順調に支払っているけれども過払いであれば回収したいという人の場合、本人が、信用情報機関に事故情報を載せたくないという場合は、完済した後で受任して過払い金請求します。この場合、あらかじめ過払い金の額を予測したいというのであれば依頼者本人から消費者金融や信販会社に取引履歴の開示請求をします。現在は、個人情報保護法でも貸金業法でも、貸金業者は借主本人からの請求に対して取引履歴等の開示を拒否できません(個人情報の保護に関する法律第25条、貸金業法第19条の2)。取引履歴開示請求をしたことで不利益が生じることもありません。
 信用情報機関に事故情報が載ってもかまわない(今後新たな借入をする気がなく、新たなクレジットカードを作る気もない)人の場合は、すぐに受任して借金が払えない人と同様の手順で進めます。
 既に完済していて過払い金請求をしたい人の場合は、完済の時期が10年以上前でないこと(過払い金請求権は完済後10年で時効消滅するので:2020年4月1日施行の民法改正で、債権の消滅時効について「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」という定めがなされたため、最終取引日が2020年4月1日以降の過払い金請求の場合は注意を要しますが、それが問題になるのは2025年4月からです)を確認して受任し、取引履歴の開示請求、利息制限法引き直し、過払い金請求と進めていくことになります。完済している人の過払い金請求は信用情報機関に事故情報として掲載されることは、現在ではありませんので、完済している場合は、その点は考慮する必要はありません。

このコーナー(過払い金返還請求の話)の構成と私の基本姿勢

 私は、庶民の側で大企業などと闘うことという基本姿勢で弁護士業務を続けてきましたし、「私のセールスポイント」(「相談・依頼」のコーナー)でも触れているように、過払い金返還請求も多重債務者の救済に取り組む中で長くやってきました。
 そういう立場から、過払い金返還請求については、借主(過払い金債権者)が法的に受け取れるはずの額は、時間と手間をかけても可能な限りきちんと回収することを優先しています。早期回収を優先して裁判も起こさず貸金業者の言い値で妥協するというようなことは私には考えられません(もしそういうことを希望する方がいる場合、他所をあたってください)。
 このコーナーでは、そういう観点から、過払い金請求をめぐるいくつかの点について情報提供をします。

 「利息制限法の基礎知識」の項目では、利息制限法の規定の内容と、引き直し計算の考え方、なぜ過払い金が発生するのかなどについて説明します。
 「借金?本当は過払い?」の項目では、過払いとなっているかどうかの判断をするために検討すべき項目とその考え方について説明します。
 「取引履歴を読む」の項目では、取引履歴を取り寄せた場合に、何に注目してどのようなことを読み取るべきかについて説明します。
 「過払い金請求訴訟の論点」の項目では、現在の過払い金請求訴訟で現実に問題となる3つの論点、①取引の一連性/分断問題、②過払い利息=悪意の受益者問題、③取引履歴一部開示問題について説明します。
 「業者別過払い金請求の実情」の項目では、それぞれの消費者金融・信販会社ごとの取引履歴開示や過払い金請求訴訟に対する対応などを説明します。
 「本人請求でも大丈夫?」の項目では、ネット上よくみられる、過払い金返還請求はだれがやっても同じ、本人でもできる、弁護士費用を差し引いたら本人請求でも同じというような記載について、私の思うところを説明します。
 「過払い金請求の歴史と現状」の項目では、2006年前後のことしか知らないのかなと思えるような記載がネット上あふれていることから、それ以前も、そして現在も2006年前後とはまったく事情が違うということを知ってもらいたいという気持ちで、過払い金請求の歴史と現状を説明します。愚痴が多くなりますけど。
 「借金が残るとき」の項目では、過払い金がないときや過払い金で借金を返しきれないときの対応について説明します。




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