この事件で裁判で勝訴した場合に判決のとおりに実現できるか、裁判を起こす前によく考えてみましょう。
判決を取ればいつもそのとおりに実現できるか
裁判で負けた側が判決に従わない場合、裁判に勝った側は、判決が命じたことを実現するために強制執行(きょうせいしっこう)をすることができます(民事執行法第22条第1号、第2号等)。判決による強制執行の典型例として、金銭の支払を命じる判決の強制執行と、不動産の明け渡しを命じる判決の強制執行について「判決の強制執行」の項目で説明します。
しかし、どんな場合でも強制執行ができるというわけではなく、限界があります。1つは、判決の内容を強制する手段がないとか強制することが適切でない場合です。もう1つは、金銭請求の場合で相手方に財産がないとか、物の引き渡しの場合で相手方がその物を持っていないような場合です。
裁判前は財産があり、また請求の対象物を持っていた被告が、裁判で負けるくらいならと裁判中に財産や対象物を他人に譲渡したり隠してしまうと、原告は勝訴しても強制執行ができないことになってしまいます。このような場合は、それを防ぐために、仮差押えや仮処分を行うことができます。強制執行妨害を防ぐための仮差押えと仮処分については、「仮差押えと仮処分」の項目で説明します。
強制する方法がない場合
判決の内容によっては、裁判所が強制的に実現する手段がないために強制執行できない場合もあります。
例えば、職場を理由なく首にされた(解雇された)とき解雇が無効と判断して従業員の地位があるという判決をとっても元の職場への復帰を強制的に実現することはできません。裁判所の執行官が毎日見張っているというわけにも行きませんから。裁判所は、そういう事情もあって、解雇無効の場合に「原職に復帰させろ」というような判決は書かないのです(裁判所は、働くことは「権利」ではなく「義務」だからそれを命じたり確認できないという理屈を言いますが、強制執行ができないということも、現実には影響していると思います)。このあたりは、「労働事件の話」で説明しますが、解雇無効の場合、給料の支払義務はあり、それは強制執行も可能ですから、会社側が職場復帰を拒否したら働かないで給料をもらい続けられることにはなります。ただで給料を払い続けるくらいなら職場に復帰させるということもあり、そういう事情で職場復帰が実現することもあります。
相手方の財産がない(見つからない)とき
お金を支払うように命じる判決の場合、従わなければその人の財産を強制的に売却して(競売して)お金に換えてそこから支払わせることになります。この場合、執行の手段はありますが、その人の財産がない場合(本当はあるけど見つからない場合も同じ)、実際には執行できません。「天下無敵の無一文」というやつです。その場合、判決があっても、ただの紙切れと同じです。
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